第六掌 魔族の暗躍



 俺は二十分弱かけてようやくリリアスたちがいたであろう場所にたどり着いていた。


「ここか・・・」


 しかし、把握していた通り、そこにはすでに誰もいなくなっていた。


「どういうことなんだ?」


 こんな辺境の村に魔法などを使える奴がいるとは思えない。

 もしもいるとすればリリアスがあんな扱いを受けるはずがないし、リリアスも昨日の時点で俺に魔法使いがいることを教えてくれているはずだ。

 それがないということはここには魔法使いはいないということになる。

 なのにどうしてこんな魔法でないと出来ないようなことが起こっているのか。


 答えは二通り考えられる。


 一つは単純に俺やリリアスが知らないだけで魔法使いがこの村にはいるということ。

 しかし、これは可能性が低い。

 さっきも考えた通り、リリアスが知らないというのはあまり考えられないからだ。

 あそこまで熱心に魔法使いになりたいと考えているリリアスが気付かないほど隠し通せるものだろうか?

 という疑問があるからだ。

 魔法が使えるが、ただの村人でしかないのならこの狭い世界で隠し通せるはずがない。


 二つ目は外部の人間がいるということだ。

 外部から何らかの目的を持った人物がこの村に介入してきた。

 こちらが可能性的には高いだろう。

 俺は昨日この村に来たばかりだが、それよりも前にこの村に来ていたのなら俺は気付くことが出来ないし、隠れればこの村の住人では探し出し、知ることは出来ないだろう。


「と、なると村が怪しいな」


 村にはその協力者が必ずいるはずだ。


 俺はその場を後にして村へと戻るのであった。




               ・・・




 村に戻ると男たちが森から村へと入るための入り口を塞いでいた。


「おおっと」


 俺はそれにいち早く気づき、木陰に隠れる。


「いたか?」

「いや、いない」

「リリアスの家を探してみるか」


 そんな会話が聞こえて来た。

 どうやら俺を探しているみたいだな。


 これはいよいよキナ臭くなってきた。


 俺は見張りに見つからないようにこっそりと移動を開始した。

 村を迂回してリリアスの家へと着いた俺は家の窓からリリアスの家の様子を窺う。

 家の中には二人の村人が入り込んでいた。


「いないようだな」

「ああ。こんな家じゃ隠れる場所なんてないだろうからな」

「しっかし、本当に何もない家だな」

「ああ。だが、リリアスは本を多く買っていたはずだ。それがないってことはどこかに隠しているかもしれいな」

「この家じゃないどこかに隠しているってことだな」

「ああ」


 なるほど。

 まあ、村人だからな。

 捜索って言ってもこの程度だろう。


「しかし、村長はどうしたんだろうな?こんなことして、もしあの男が怒りでもしたら・・・」

「ああ。魔法使いかもしれないって話なんだろ?」

「とにかく、しがない村人の俺たちは村長に従うしかないってことさ。さあ、次に行こう」

「そうだな」


 そして村人二人が去っていった。


「ふぅ」


 俺は家の中に入り、一息入れる。


「しかし、手掛かりが掴めたな」


 まさかドラマやアニメみたいに本当に人の立ち話で手掛かりが掴めるとは思わなかったわ。


「村長か。確かに怪しいな」


 大体、権力者が怪しいって相場は決まっているからな。

 そもそもそこらの村人が悪だくみしても大事にはならない。

 今回のこともそうだ。

 急にいた場所から消えるなんてそこらの村人が出来るはずがない。

 出来るとしたらそれ相応の人物が行っていることになる。


「さっそく探ってみるか」


 まあ、俺は素人だからそんなにすごい隠密行動が取れるわけではないけど、村人相手なら大丈夫だろう。

 とりあえず、村長の家に行ってみるかな。

 場所は把握スキルを使えば大丈夫だろう。


 俺はリリアスの家を窓から出て、村長の家へと向かったのだった。




                  ・・・




「・・・ここは?」


「気がついたか」


 リリアスは牢屋で縄で縛られながら、目を覚ました。

 自分が縛られていることに目が覚めた瞬間に把握したが、自分がどこにいるかが分からず混乱してしまう。


「あんたは私の計画上で邪魔な人間の一人だったからね。こうやって拘束させてもらったわ」


「魔族―――――ッ!」


「へぇ。よく分かったわね」


 そう。

 ドンナーは魔族である。

 日本からやって来たタカキなら、よく分かっただろうも何も見ただけですぐに分かる。

 見た目、まんま魔族ですって言っているような容姿だからだ。


「本で読んだことがあるもの」


 しかし、この世界の人間には判別がつかないこともある。

 それはハーフなどがいるからだ。

 たまに遺伝子上でその種族の特徴を突然発現してしまうことがあり、純血かどうかが分からないのだ。

 基本は純血だが、このオークス王国で出歩いている見た目魔族の人は本当は人間なのだ。

 なので、見分けることは出来ないのだ。


「この国には見た目魔族の人間がいるって聞くけど?」


「でも、尻尾は生えていません」


「あら?」


 そう。

 どんな魔族に似ている人間でも尻尾が生えていないという特徴があるのだ。

 つまり、魔族かどうかを見分けるには尻尾が生えているかを見ればいい。

 それだけで判断がつくのだ。


「まあ、今は関係ないけどね。あなたはここで私がこの村を支配するまで待っているといいわ」


「⁉」


 驚くリリアス。


「こんな何もない村にどうして魔族であるあなたが?」


「今、あなたが捕まっているこの場所が答えよ」


「・・・ここ、どこなの?」


「タブル村の地下にある古代遺跡の中よ」


「そ、そんなのがここにあったの⁉」


 続けて驚くリリアス。

 まあ、自分の住んでいる土地の下にそんなものがあると知らされたら驚かずにはいられないだろう。


「ええ。それにここなら支配しても人間の国にも気づかれにくいでしょ?好都合なのよね」


「そんな。・・・どうやって」


「私の種族を知ればどうやってかは分かるわよ」


 リリアスは格子越しにドンナーを見る。


「サキュバス?」


「あら。当たり。正解よ」


 ドンナーはその場を手を広げ、クルリと回りながら笑う。


「それじゃ私はそろそろ行くわ」


「なんで私の所に?」


「あなたにはお礼を言いたかったからよ」


「お礼?」


「ええ。あの男をあなたが連れて来てくれたおかげで村人の心に揺らぎが出来て洗脳出来たんですもの。本当にありがとう」


「そんなッ」


「お礼にあなたが連れて来た男も洗脳してあげるわ。まあまあカッコいいみたいだし、可愛がってあげないとね」


 そしてドンナーは歩いて牢屋から出て行った。


「タカキさんッ。ごめんなさい!逃げてッ」


 牢屋に残されたリリアスがそう呟き、その言葉は牢屋に響いていた。


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