第五掌 初・能力使用と捜索


 どこだ?


 どこにいるんだ?


 あれから俺は村中を探したがリリアスは見つからなかった。

 村の家以外は探し回った。

 それでも見つからないとはどういうことなんだろうか?


 どうする?

 何かに巻き込まれているかもしれない。


 この世界で初めて会った相手だ。

 いい娘だし、最初の仲間になる娘だ。

 出来ることなら大切にしたい。


 何か、何かないか!

 この状況を何とか出来るもの。


 あーもう!

 動きながら考えていても考えがまとまらない!

 仕方ない、一旦止まろう!


 俺はその場に止まって考える。


 村の人に聞くか?


 いや、ダメだろう。

 今現在でも遠巻きに忌避と奇異の目で見ている。


 それに、この村にとって異物でしかない俺が急に話しかけても逃げられるか無視されるだろう。

 一番最悪なのは嘘を教えられることだ。

 それで俺が見当違いな所に向かってリリアスを助けることが出来ない。

 最悪のシナリオだ。

 それは回避しなければ。


 この村の外のどこかか?


 いや、村の中にいるかもしれないのに俺がそのまま外に出て行くのはまずい。

 ヘタしたら入れてもらえなくなるかもしれない。


 リリアスを連れて行くと言った手前、何も言わずに置いていくことだけは避けたい。


 この状況を何とか出来るもの・・・。


 ・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・まてよ。


 俺はステータスを急いで確認する。


 俺の固有スキルは全掌握だ。

 括弧内に書かれている把握も能力の一つだろう。

 つまり、何でも把握して掌握出来るんだ。

 それはもしかしてこの空間ですら可能なんじゃないのか?


 神も言っていたじゃないか。

 掌握できないものはないって。


 やってみる価値はある。

 いっちょ、やってみっか!


 だが、初めて意識的に使うんだ。

 何が起こるか分からないし、難易度は出来るだけ下げておきたい。

 空間の把握までに留めておこう。


 上手くいったとしても、俺が動けなくなってしまうのは本末転倒だ。

 何か起こっていた場合、助けに行けなくなるからな。


「把握。把握。・・・・こうか?」


 目を閉じ、自分の感覚を広げるイメージをする。

 広げていく範囲のイメージは円だ。


「どうやら成功みたいだな」


 不思議な感覚だが、うまく把握できたみたいだ。

 真上から下を眺めているような感覚。

 疲れもない。

 MPを消費するかもとは思ったが、杞憂のようだ。


 地図に小さな人間を乗せた感じと言えば分かるだろうか。

 その地図を上から見ている。

 まあ、そんな感じだ。

 人も黄色の点を表している。


 こういうことが一瞬で理解できるのも固有スキルの特徴の一つなんだだろうか?

 それともこの疑似神眼のおかげなんだろうか?

 いや、今はそんなことを考えなくてもいいな。

 今はリリアスだ。


 若干情報処理がうまく出来ていないのか、少し頭痛がする。

 初めて使うからというのもあるだろう。


「っつつ。まあ、これくらいなら何ともないな。もう少し把握範囲を広げてみるか」


 少しずつ広げていく。

 村の中にはいないのか?

 じゃあ、どこに?


 俺は再び考え込む。


「村にいない?だが、なんだかんだで出会って一日目の俺を置いて遠くに行くか?いや、その可能性は低い。つまり、外に行っている可能性は少ないはず。村にいないってことは・・・・・。!森か」


 俺は自分が最初に召喚された森へと視線を向ける。

 あそこなら可能性はあるな。


「ここから把握の範囲を広げるより森の近くで把握した方がいいか」


 走って森の入り口まで行く。

 もちろん把握は維持したままだ。


「・・・・見つけた!」


 リリアスを見つけたはいいが、一人ではないようだ。

 何人か一緒にいる。


「おいおい。なんかちょっとヤバいんじゃねえか?」


 この構図。

 何人かの奴がリリアスを囲んでやがる。

 少なくとも友好的ではないな。


 ここからまあまあ目的地まで遠い・・・。


 だが、神いわく、俺のステータスは加護でかなり高くなってたな。

 ここは力任せでいくか!


 俺は本気で走る。


 なんかすごいな、これ。

 走行中の車から外を見たときと同じ景色の流れ方だ。

 体がものすごい軽く感じる。


 俺はその場から駆け出した。


 森に入り、一直線にリリアスがいる場所へと向かうが、昨日歩いて村まで一時間近く掛かったのだ。

 例えタカキが通常の十倍のステータスを持っていて、全力で走っていても、足場の悪さも相まって到着まで二十分は掛かってしまうだろう。


 しかし、それでも急がずにはいられない。

 俺は今自分が出せる力を使い、全力で駆ける。


 すると、突如としてリリアスとリリアスを囲んでいた村人の反応が俺の把握している範囲から消えた。


「⁉」


 突然のことに驚き、その場に止まってしまう。


「どういうことだ⁉」


 能力である以上、機械のように故障と言うわけではないだろう。

 つまり、向こうにいる誰かが何かをしたというわけだ。


「俺の把握スキルは仮にも神が与えた固有スキルだ。それを掻いくぐるって言うことは俺よりも圧倒的に強い何者かがいるって言うことなのか?」


 しかし、これ以上考えても仕方ない。

 とにかく、把握できなくなった以上はリリアスたちがいた場所に向かうしかない。


 俺は再び駆けだした。




              ・・・




「上手くいったわね」


 ドンナーは呟いた。


「はい。それではこちらへ。こちらに縛っておりますので」


 村長はそう言い、ドンナーを案内する。


 そこは代々、タブル村の村長しか知らない古代遺跡の中であった。

 その仕組みを使い、タカキの把握する範囲から転移したのだ。

 転移することがどれだけ凄いのか分からない辺境であるタブル村の村長はこれをただただ見張っていた。

 昔の言い伝えに従う形で。


 言い伝えは単純。

 『この遺跡を誰にも悟られてはならない。命を懸けて隠し通せ』というものだ。


 しかし、ドンナーによって洗脳され、そんなことは些末なことになった今の村長はあっさりとその遺跡のことをドンナーに教えたのだ。


「あ~。しかし、まさかこんな素晴らしいものがあるなんてね。転移まで出来るなんて。最高の場所を見つけたもんだよ」


 ニヤニヤが止まらないドンナー。


「着きました。こちらの牢屋に閉じ込めています。しかし、今はドンナー様にいただいた魔法薬で眠っていますので起きてはいません」


 村長はそれだけ言うとその場を後にする。

 そしてそこにはドンナーとリリアスしかいなくなった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る