第八掌 何とも言えない



 ドンナーを置いて遺跡の奥へとやって来た俺。

 今いる場所の隣の部屋から一人の反応がある。

 そしてその奥にもう二人。

 一人は恐らくリリアスだろう。

 把握出来る範囲にはもう反応はない。

 ドンナーも追いかけて来ていないようだ。


「しかし、罠とかないと思っていたのに、結構あるもんだからびっくりした」


 実はここにくるまでに結構な罠が俺に襲い掛かって来たのだ。

 落とし穴から始まり、追いかけて来る大玉。

 地面から急に飛び出る剣山。

 せばまって来る横壁etc...。


 でも、どう言うわけか、大抵は猛スピードで走り抜けたら回避できる罠ばっかりだった。

 落とし穴はどうやら俺の影に反応して作動してしまったらしく、俺はまだ落とし穴のある部分を踏んでいないのに穴が開いてしまったのだ。

 大玉なんかはそもそも追いつかれなければ怖くもなんともない。

 地面から飛び出る剣山も剣が生える前に通り過ぎたし、せばまって来る壁も同じくだ。

 どうもここは低ステータスの者専用の遺跡のようだ。

 っていうよりこれはすでにダンジョンだけどな。

 括りとしては一応遺跡ってことになるんだろうけど。


「さてと。それじゃお邪魔しま~す」


 特に何のためらいもなく反応のある部屋を開け放つ。


「なっ⁉」


 恐らく村長だろう人物がそこにはいた。


「ふ~ん。ここはコントロールルームってところか。これで俺を罠に掛けようとしていたんだな」


「っく」


 何か行動に移そうとする村長(仮)。


「させないって」


 それを俺は鳩尾を殴ることで気絶させる。


「これでよしっと。一人の方の反応がコイツだってことは・・・もう一つ向こうの部屋にリリアスはいると見た」


 俺はそのまま村長(仮)をその場に放置してさらに隣の部屋へと繋がる扉を開け放った。


「むぐ――――――!!!」


「リリアス、お前は俺のものになればいいんだ!」


 そこには口を縛られ、体も拘束されている涙目のリリアスといかにもこれから襲い掛かりますといった感じのリリアスと同い年くらいの少年がいた。




                 ・・・




 ドンナーがリリアスとの会話を終え、部屋を去った後。

 そこにパッシュがやって来たのだ。


「リリアス。ざまぁないな」


「パッシュ!」


「おとなしくこの村で暮らしていれば良かったのに、諦めずに魔法使いなんて目指してよ?挙句にあんなどこのどいつだか分からない奴を村に入れやがって!」


「私の夢なんだもの!いつ諦めるかなんて私が決めるわ!他の誰に言われたってこれだけは変えられない!」


「そんなのはどうでもいいんだよ。お前はこれからおとなしく俺の女になればいいんだ」


「パッシュ、あなた何を言っているの?」


「なんで気づかないんだよ!俺はお前が好きだったんだ!なのに知らない男を家に招いたりしやがって!俺ですらお前の家に入ったことなかったのに!」


 逆上しながらパッシュは叫ぶ。


「何よ!私が好きならどうして魔法使いになるっていう私の夢を馬鹿になんてしたのよ!応援してくれればよかったじゃない!」


「うるさい!魔法使いなんて、なれるはずがねぇだろうが!俺はお前をそんな馬鹿げた夢から覚まさせてやろうとしただけだ!」


 自分の考えを押し付けてくるパッシュ。

 そんなパッシュをリリアスは悔しそうに、でも悲しそうに見つめる。


「なんだよ!その目は!」


「魔法を覚えない限り、ここを出る力なんて私にはないのに、どうしてそんなに必死になるの?」


「ドンナー様から聞いたんだ!お前があの男を連れて来たのは魔法によってだって!」


 これは実はパッシュをいいように洗脳するためのドンナーの嘘である。

 しかし、嘘から出た実とはこのことか。

 実際にリリアスはタカキを召喚してしまっていた。

 そのことが動揺となってリリアスの表情に現れた。


「その顔!やっぱりだ!ドンナー様の言う通りだった!」


「ち、違うわ!」


「何が違うって言うんだ!お前のその顔、知っているぞ!嘘をつくときの顔だ!お前は嘘をつくときに一度口を強く閉じる。さっきもしていたぞ!」


 驚いて自分の口元を抑えるリリアス。

 しかし、もう遅い。


「もう決めた!お前を力ずくにでも俺のものにしてやる!」


 そしてパッシュはリリアスの入っている牢屋の中に入り、口を持っていた手拭いで塞ぐ。


「むぐ!むぐぅ!」


「黙ってろ!」


 そしてパッシュは立ち上がり、リリアスを見下ろした。


「むぐ―――――――!!!」


「リリアス、お前は俺のものになればいいんだ!」




              ・・・




 なるほどね。この状況。

 考えるまでもないな。

 幸い、牢屋は開いている。

 中には簡単に入れた。


「てめぇは寝てろ!」


 俺はそのままリリアスに襲い掛かろうとしていた少年を殴り飛ばした。

 特に加減もしていなかったので生きているかどうかも分からない。

 でも、ステータスを見る限り、レベルアップとかもないので死んではいないだろう。


 こういうレベル1とか最初ってすぐにレベルが上がるじゃん?だから大丈夫だ。

 たぶん・・・。


「リリアス、無事だったか?」


 俺はリリアスの拘束を解きながら聞く。


「ぷはっ。は、はい。タカキさんのおかげで何とか」


「そうか。それじゃここをすぐに出るぞ!」


「はい!」


「それから、もうこの村からは出た方が良い。色々と厄介そうだ」


「わ、分かりました。一回私の家に寄ってもいいですか?」


「ああ」


「ありがとうございます!」


「よし。それじゃいくぞ!」




             ・・・




「「・・・・・・」」


 俺達は遺跡から脱出すべく急いで来た道を戻っていたのだが、あるものを見てしまって何とも言えない気持ちになり、その場に止まってしまっていた。


「これ、明らかにやられていないか?」


「はい。やられていますね」


 そう。

 俺達が見たのはドンナーの死体だった。

 初めて死体を見たので動揺するかもしれないと思ったのだが、それより先に呆れが来てしまう。


「俺が引っかからなかった罠に全部引っかかっているな」


 そう。

 ドンナーは俺が回避した罠、全てに引っかかっていたのだ。

 もう、なんて言ったらいいのか分からない。


 大方罠などない、もしくは自分には作動しないようになっているとでも思ったのだろう。

 しかし、作動してしまった。

 それは恐らく俺が村長(仮)を気絶させたことに問題がある。

 あの部屋で村長(仮)が罠の管理をしていたのだろう。

 それを気絶させてしまったから油断も相まってサクッとやられてしまったというわけか。


「なんだか、急ぐ必要。なくなりましたね」


「・・・ああ」


 何とも言えない空気なった俺達だった。

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