ver.-

@tandori

第1話 悪夢から目を覚まして

「ねぇ、お兄ちゃん。…どうして助けてくれなかったの?」



「あぁ…ッ!! はぁ、はぁ……」


悪夢から目を覚ました黒髪黒服の男性。

その顔は青ざめ、ベッドの上で汗だくになっていた。


「シャル~? 起きてる?」


「……あぁ」


部屋の外からの声に、シャルと呼ばれた男性は呼吸を整えたあと返答した。


「トースト焼いたけど食べる?」


「…あぁ、今行く。」


彼は自室から出て、声の方向へ歩いていった。


大きな自動ドアが開き、無数のコンピュータの並ぶ広間に足を踏み入れる。機械に囲まれたその部屋は少し無機質な雰囲気で、白色が多く目に入った。


「はい、トースト。ジャムは自分で塗って」


先程の声の主は香ばしいトーストの乗った皿をシャルの前の机に置き、たばこに火をつけ忙しそうにパソコンを操作しだした。35歳にしては若く見える顔で白衣を纏う彼女の名前はミラ。


「おいドクター、これ焦げてる」


シャルの隣に座っている緑色のポニーテールがミラを「ドクター」と呼んだ。


「本当?トースターおかしくなっちゃったかしら」


ミラはそう言いながらもパソコンから目を離さない。集中して作業をしている。


緑色のポニーテールの名前はギルティ。シャルとギルティはこの研究所でDr.(ドクター)ミラの部下として働いている。ドクターは警察組織を動かす仕事をしているみたいだが、シャルはあまり詳しくもなければ興味もなかった。やけに黒いトーストにマーガリンを塗りながらギルティはシャルを見た。


「え、なんでお前 汗びっしょり?シャワー浴びてこいよ」


「これ食べたら浴びる」


シャルはおいしそうなトーストにイチゴジャムを塗りながら答えた。ミラはパソコンからシャルに視線を変えた。


「…また悪い夢を見たの?」


「………あぁ。」


「どうしたら治るのかしら…私も色々治療方法を探してみるけど」


「別に病気じゃない。それに、…きっと治りもしない。」


「…一人で抱え込んじゃダメよ。」


「………。」


シャルとミラのやり取りを最後に、その部屋の会話は終わった。トーストを食べ終えたシャルはそっと皿を洗い場へ片付け、黙って風呂場へ向かっていった。

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