第3話 月の夢

 まるで、悪夢から覚めるように。

 落ちるような感覚は目が開くのと同時になくなった。

 そして、そこは夜の公園。

 少女はいない。ここには私1人。

 見上げれば満天の星空。

 空には雲も月もなく、地上では街灯がついていない。

 それでも周りが見えるのはモニュメントの月が淡く光輝いているからだ。

「……どうして光っているんだろ?」

 モニュメントに触れると、輝きが強くなり視界が白に染まった。



 徐々に周りが見えるようになる。

 そこは小学校だった。私は雪の降り積もるグラウンドの真ん中にぽつんと立っている。

 不思議と寒くなかった。でも、雪をさわると冷たい。

 グランドにある小さな物置の方から物音が聞こえた気がして、そちらに向かうと、そこには小学生の頃の私ともう一人。

 私の大切な……年下の友達。

「わかる!いいよね、屋根の上」

 彼女の瞳はキラキラと輝いている。

「うん。私も冬はよく屋根にのぼって遊んでる」

 ───彼女、いい子だったなぁ。今は何してるんだろう。

 二人は仲良く帰路についた。

「あれ?なんだろう……」

 ふと、屋根の上で何かが光っているのに気づいた私は、屋根の上にのぼる。

 そこには、白く輝く星型のもの。

 それに手を触れると、輝きが強くなり視界が白に染まった。


 次に目の前に広がったのは、今はもうない幼稚園。

「……これは、星を集めたらいいのかな?」


 私は、思い出を巡る旅をしているようで、とても楽しい気分になった。

 年代も場所もランダムに思い出めぐり。

 星は思い出が一段落着くと見つかった。



 ──それは花火の思い出の後だった。幾度目かわからないけれど見つけた星は深い紫のような色だった。それに触れると今度は星の深い紫が私を包む。


 気が付くと、元いた場所に戻っていた。

 モニュメントの放つ光が弱々しく、そのまま すぅっと消えて普通のモニュメントになった。

 空を見上げると、そこには満月が輝いている。

「お姉さんは、大切で溢れているね」

 後ろから少女の声が聞こえ、振り返る。

 そこには、あの少女が立っていた。

「たくさんの思い出」

 少女の周りを私が集めていた星が漂っている。

「それに、友達も」

 少女は、慈しむように宙に浮く星に手を触れた。

 すると、星々は突然さーっと動き出し、私の横を通りすぎていく。

 その動きを目で追うと、そこには星々ともに、私の大切な人たちの姿。

 名前も覚えていないような友人も。もう会えない人もいる。

 視界が涙に歪んだ。

「大切にしてくれてありがとう。大好き」

 後ろから聞こえた少女の声。

 私は瞳をゆっくりと閉じる。


 私の頬をつたって一滴の涙がこぼれ落ちた。




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