第15話 武器入手(私のじゃないけど)
「難しい注文だねぇ兄ちゃんよ」
深湖と出会う前、戦闘中に武器を失ったというルプスに付いて2人は武器屋に来ていた。
所狭しと並ぶ武器は、もう何が何だか分からない形状の物や、用途が想像も付かないものまである。
品揃えが良いのか悪いのか、深湖には判断は付かない。ルプスに何を買うのか聞けば剣だと言っていたにも関わらず、店の4割を占めるであろう陳列された剣たちには目もくれずに、ルプスは店主に注文を付けていた。
「あるだろ?
訳ありでもいい、兎に角見せてくれ」
強引なルプスに店主は折れて、15分程の攻防は終わった。
奥に引っ込んでいった店主はそのまた奥の誰かに声を掛け、運び手を募った。店主の声に応じて、若い青年が店主と協力しながら箱を擦り押して店内へとその箱を運び出す。
「全く、この箱は重いんだよ……」
「ふーやれやれ」と腰を叩く店主はもう大分白髪も混じっている、若くはないおじ様である。深湖はルプスをちらりと見て、手伝えば良かったのにと非難の視線を送った。
「店の倉庫にゃ部外秘のもんもある。求められてねえのに入れるか」
店側の人間には聞こえない程度の声で応じるルプスに、深湖はそんなものなのかと頷く。
「さて、こん中あとっておきだ。
兄ちゃんよ、何をかけて証明してくれるんだ?」
「この腕輪に掛けて。」
ルプスがそう言って片腕を差し出すと、店主はその腕輪をジッと観察した。やがて眼を丸くすると、納得したように頷いてルプスの顔を改めて見た。
「なるほど、獅子の協会の腕輪か。
信用に足る。此方も敬意を以って」
そして箱の前に立ち塞がっていた店主は、箱へ続く僅かな距離をルプス明け渡す。
ルプスは捲った袖を元に戻しながら箱の前に進み、重い蓋を開けた。
蝶番が軋みの声を上げ、ルプスと深湖の目の前に武器がその姿を晒す。
「……はあ、こりゃあ」
そう呟いたきりルプスはその剣を睨み付けて動かない。
長い封印など感じさせない程の圧倒感を持つその剣は、大きな刃を持つ大剣。様々な武器に遮られて光の薄い店内で、鈍く不穏に光っている。
深湖もここまでマジマジとこんな大きさの剣を見るのは初めてで、暫く惚けたように見つめていたが、ふと手を伸ばした。
「嬢ちゃん、やめとけ。
その剣は蛇神の牙を混ぜて作られた剣だ、気に当てられりゃあ2.3日は寝た切りになっちまう」
「蛇神……」
伸ばしていた手を一瞬止めて、店主を見た。だが手は再び動き出す。導かれるように、引き込まれるように指先が太い刃に触れた。
その瞬間、刃の表面に光が浮かんだ。そして深湖の視界が白黒と光の世界へと切り替わる。頭の奥底で剣に切り替えさせられたのだと分かった。
「ミコ、お前…」
深湖のエルフとしての姿だ、空気が張り詰めるのが分かる。瞳孔が狭くなった、細く長い瞳は過去を感じ、未来を垣間視る。
様子を見ていた店主が驚きで固まる気配があったが、ルプスは今は目の前にある大剣と、その大剣に対するミコの方が気になっていた。
「文字が、見えます」
鈴を鳴らしてもこんなに透き通る音には出会えない、そんな声で深湖の落とした言葉にルプスは続きを促した。
「何て書いてある?」
「……蛇が牙を扱うは聖を貶め、神を受くれば蛇を滅す」
その文字を読み上げた瞬間深湖の視界は元に戻り、張り詰めた空気の中に町の喧騒が戻って来た。
動くことを自ら無意識に封じていた店主は、はっと我に返って改めて深湖を見詰めた。
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