Side〝K〟-3 Second act Closing
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真崎は山形の後髪を掴み、カウンターに額を何度も叩きつけてから、トイレに押し込め、さらに殴り、蹴りつけた。
山形の額から赤い血と、黄色い体液が流れる。彼が気絶した後、真崎はカウンターに戻り、手を洗ってコーヒーを淹れた。
その間、ずっと少女は歌をハミングしていた。
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少女は真崎から、茶色い紙袋を受け取り、中身を取り出す。
真崎が問う。
「三人の共通点、いえ、あなたを含めて四人。みんな、その曲を歌うらしいのよ。何故?」
少女が取り出したのは五十口径のオートマチック銃と、箱入りの弾丸。
カウンターに並べてながら少女は笑っていう。
「知らね。オレの場合、最近のポップなラヴ・アンド・ピースに飽きたから。マイナーロックには好きなやつがゴロゴロいるけど、メディア露出が無いんだよね。このミスター・フーのアルバム、不完全迷宮……その中でも二十五番は、完っ全に駄作。笑える」
喋りながら少女は銃を解体して、組み直した。弾を装填させずに、引き金を引き、異常がないかを確認して弾倉を銃底へ入れ、ぱしん、と音が鳴るや、また解体し、また組み直す。
少女はそれを三回、繰り返した。
その様子を見ながら真崎は問う。
「いいじゃない、愛と平和が一番。それをかかげて、いけないの?」
すると薄く笑みを浮かべ、少女は銃を真崎に向けた。
「ビートルズだって反骨精神だったろ。なのに現代日本は、そんなビートルズの曲を真似たやつばっかり……おかしなスパイラル、退屈だろ?」
真崎は銃口を右手で塞ぎ「ビートルズは別格。素人だけ文句をつけるのよ?」という。
少女は銃を腰の後ろに突っ込み、ベルトを締め直した。
「耳タコっすよ。音楽性、バンドとして各楽器のスタイル、レコーディング期間や方法、使用機材、ライヴの音響設備、ステージパフォーマンス、作詞作曲の在り方、発想、音楽業界の方針とかもう全部、一切合切、変えたんだろ。特にヒッピー文化は革命だっただろうさ。堕落と麻薬をばらまいて……想像してごらん? 全人類がニートで、ヤクをキメて笑ってる世界を、ってね。誰にも真似できないわな。てか、しないっての」
そして少女は紙袋に箱入りの弾丸を詰めこむ。
真崎は苦笑して、いう。
「あのねえ、まず〝imagine〟はジョンのソロよ。とんでもない誤解と偏見ばかりで、語ろうものならどっちらけ。四面楚歌ね」
「オレの感覚だもん、否定も肯定もいらない。けどヨーコの絡んでる曲はぜんぶ同じ理想論に思えない? 感化されたリスナーの一部が〝Love’s overpower〟って言葉の元、ドラッグ三昧の遊び放題してたのは事実だろ。他人がどうこう言ってもゴーイング・マイウェイ。現代のリスナーは、これに匹敵するアクションなんてしたかよ? アクションを誘発するほどの名曲があるか? せいぜい後追い自殺ぐらいだろ」
「時代、国、人によって異なった人生がある。多くの音楽ファンは楽曲と、アーティストを生きる原動力や目標にしてる。それが現代だと、私は思ってるわ。自殺って簡単に言うけれど、ファンからしたらもう、天変地異なんだから」
真崎はコーヒーを少女の前に置く。
少女はそれを啜って、いう。
「なるほどねぇ。難度MAXの現実を攻略するための音楽、アーティストも等身大のプレイヤー。気持ちはわかるよ。それでも嫌いだわ」
「だったらその耳と口、売ってくれない? ずっと家出するなら、お金がいるでしょう。物好きなバイヤーを紹介するわよ」
「無理。そんなことしたら〝ルシータ〟が、誰かに泣きつく。また強姦だ誘拐だ事件だと、後でオレが〝コウ〟とオヤジに説教くらう。で、悪いのはオレにされて、みんな〝ルシータ〟を慰めるわけよ。現在、オレの部屋にあるアートもサブカルもブルジョワジーな、まがい物ばっかり。本当に良いものがどこにあるかネット検索しようにも、金と規制とモラル、そして〝レイコ〟に阻まれるわけっす。ま、わからねぇだろうけど」
「多重人格ならではの苦悩ね。でも私が知ってるあなたは〝クルギ・カルト〟に違いない。でももし他の人格が現れても素敵なお客様、友人として、もてなすわよ」
「それこそリタとかカンダのガキとかを見かけたら、そう接してしてやれよ。少なくとも今回みたいなバカは減るさね。
ま、もう誰に何を言われてもオレ、キレてるから。双頭の幹部は潰す。そういや弟さんの店に流れてた曲も、ミスター・フーのだったな」
真崎は返事をせず、少女の言葉と鼻歌を聞いていた。
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「そろそろ行くわ」と紙袋を持って、少女は席を立つ。
「あ、幼馴染一号と、弟さんに伝言な?」と少女は入り口の扉を開けて、振り返らずにいう。
「今回は良くて相討ち。でも結果によって女子高でガチの事件が起きる。これが〝レイコ〟のたどり着いた、クソジジイのシナリオ……でも黒幕があのジジイじゃ無い場合は予測不可能。これを幼馴染一号に。
弟さんには……オレの事は忘れて、お元気で。ありがとう。好きになりそうだった」
真崎は、どういう意味かしら、と尋ねるが少女は振り向きも返事もせず出ていった。
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