空を見る

マフユフミ

第1話

ずっと空を見てたんだ。

銀色の飛行機から伸びる一筋の糸を見て、どこかに行きたいと思ったんだ。

空がオレンジと赤紫と群青色の三色になったころ、

どこかに行こうと思ったんだ。

あてなんてなくて、お金なんてなくて、

でもそんなのどうでもよくて。

この足だけでどこかにたどりつきたくなったんだ。

ビルの狭間のコンクリートの道を抜け、

どこまで行っても平らな道をただ進み、

一番星を見つけたりして、

街の雑踏をかき分ける。

たくさんの知らない顔とすれ違いながら、

たくさんの溶けない心をすり抜けながら、

ここでないどこかへ行きたいと思った。

駅前のコーヒーショップ、踏切向こうの本屋さん、

そんなところではなく、

何もかも知らないところへ。

ずっとあこがれてたんだ。

あの雲の向こうに何があるのか。

延々と続く青色のその先には一体何が待っているのか。

手の届かないところだから、

決してたどり着くことのない場所だから、

それだからこそ強く激しくあこがれた。呼吸もできなくなるほどに。

いつもいつも見上げてた。

雲の流れのはやいひの、日差しの強い日も、

空の青に溶け込みたくて。

冬の冷たい空、春のあったかい空、

昼と夜が混ざり合うあの瞬間。

雨雲に隠されていくあの時も、

空はいつも味方で、いつもいつも遠かった。

理由なんかないけれど、やっぱりどこかに行きたいよ。

途中でボロボロになったって、すごく泣きたくなったって、

きっと見ていてくれるよね。

それでも包んでくれるよね。

この足で独りで立つ姿、きっと見ていてくれるよね。

ずっと空を見てたんだ。

暗がりに浮かび上がる灯台の白を見て、

どこかへ行けると思ったんだ。

空が、目を凝らしても見えないほど深い紺になったとき、

どこかへたどり着けると思った。

いつになってもかまわない。どこに着いてもかまわない。

この足だけで、どこかにたどりつきたくなったんだ。

ここではないどこかへ行きたいと思ったんだ。

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空を見る マフユフミ @winterday

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