第2話謎の男

 気が付いたら終点まで来てしまったようだ。駅のホームは暗く、だれもいない。もう家に帰る電車はこない。

 ---死のう。

 ホームから飛び降りようか。電車が来たらすぐ死ねそうだし、もうくたくたで動けないし………。

「さよなら、お母さん、お父さん……」

そう呟いて、私は飛び降りようと……

「ねえ」

「えっつ!?」

突然かかった声にびっくりして横を向くと、いつのまにか隣に男の人が立っていた。ぼさっとした短い髪で、薄汚れたシャツを着ている。顔は、暗くてよく見えない。

「あのさ、もしかして飛び込み自殺しようとしてない?」

「!!」

ばれた?まあ当然か。黄色い線の外側に立ってて今にも飛び降りますって感じだったもんな。

止められるだろう。でも私の決意はかたい。止められたって飛び込んでやる。生きてたって苦しいだけだから。

「あのさ…」

「なんですか」

「もう終電の時間とっくに過ぎてるから朝まで電車通らないと思うよ」

「あっ!!」

忘れてた。私終電に乗ったじゃん!もう電車来ないじゃん!

「だから、自殺したいならどっかのビルから飛び降りるとか、ここで朝まで待つとか…… あ、でもビルも朝まであかないか………どっちにしろ朝まで待つしかないってことだね」

「え?」

「え?何かおかしいところでもあった?」

「いや……止めないんですか?」

そうだ。てっきり止められるかと思ったのに………逆に自殺のしかたまでアドバイスしてもらって………。

「止めないよ。あなたが自殺したいのなら自殺すればいい。」

な……なんだこの人。なんかちょっとおかしい。

「普通自殺しようとしてる人を見たら止めるもんじゃないんですか?」

「自殺なんてしたけりゃすればいいじゃないか。生きるのが嫌な人は死ねばいい。そうじゃない?」

「違います!それがたとえどんな人であっても命は大事にしなければいけません!」

「じゃあ……」

そう言って男はくすりと笑った。

「あなたは自分の命も大事にしなきゃいけない。それがたとえどんな人であっても。あなたであっても」

「けど私は死ぬんです!」

「あなたは言ってることが矛盾してるよ」

「---っ!!」

何も言い返せない。確かに私の言っていることは矛盾している。

うう……この人に勝ちたい!

「ところで、あなたはまだ自殺がしたい?」

「え……」

この人に止められて、そのあと言い合いになって……

いつのまにか、自殺するなんて忘れていた。何あほなこと考えてたんだろう…。

「あ……」

もしかして。

もしかしてこの人は、こうなることを分かっていてて…。

いや、まさかね。まさか……。

すると、男はまたくすりと笑って、

「もう真夜中だし、僕はもう帰るね じゃあね」


私にたくさんの疑問を残しながら、行ってしまった………

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