「甘えるって……やれやれ、傍から見たら僕達って結構怪しい関係に見えると思うのですが」


 記憶よりも男の子らしくなった手に、照れ臭さを覚えて。自分らしくない感情を誤魔化そうと、皮肉を口にして。それでも、彼は手を離したりしなかった。


「んー? 大丈夫大丈夫、じいちゃんと孫っていう風にしか見えてないから!」

「じ、爺ちゃんって……」


 無邪気に笑う彼に、何も言い返せない。つまり、リヴェルは僕のことをそこまで年寄りに見ているのだろうか。確かに、生まれてから重ねた年齢は確実に彼の千倍以上であるのだから、間違ってはいないのだが。

 凄く、物凄くショックです……。


「で、さっきの女の人って結局何なの? ルシアと何か関係あるの?」

「ああ、えっと……ですね。先程の彼女はダリアさんといって……」


 気を取り直して、先日の出来事を話してやる。どうやらルシアはあえてリヴェルに話していなかったようだが、警戒させるという意義で説明しておいた方が良いだろう。


「……と、いうわけで。ダリアさんだけでなく、怪しい人には近付いちゃ駄目ですよ」

「ふーん。でもさ、それって……ジェズ、結構ヤバくない?」

「そうなんですよ、ヤバいんです。でもあの日とは服装も、髪型も違うので何とかなるかもしれません」


 下したままの前髪を掻き上げて、へらへらと笑ってみる。いつもなら前髪も後ろに撫で付けているのだが、ルシアもリヴェルも整髪剤の類を持っていないようなので今日はそのままにしている。

 服装もルシアのものを借りているのだから、よく考えたらすれ違う程度ならバレないかもしれない。


「でもなー……ジェズってイケメンだからなー」

「あはは! リヴェルくんにそう言って頂けるなんて、照れちゃいますね」

「じゃなくて、さ。髪型と服は変えても、顔は何にもしてないじゃん! ちょっとよく見られたり、話しかけられたらすぐにバレると思うんだケド」


 自分のことでもないのに、うんうんと悩むリヴェル。やれやれ、本当に優しい子だ。


「あっ、仮面付けるとかどう!?」


 発想は大分、突拍子もないけれど。


「あの……それだと怪しさが際立って、余計目立つと思うのですが」

「そ、そうかな……じゃあ、目出し帽は?」

「却下です。捕まります」

「えー?」


 笑ったり、悩んだりと忙しい子猫を微笑ましく見守る。次々と上げられる案は笑えるものから笑えないものまであったけれど、彼自身は大真面目で考えてくれているので文句は言えない。しかし、顔をそのままにしておくのは確かに不味いかもしれない。

 後でルシアにアドバイスでも貰おうか。そう考え始めたその時、リヴェルが僕の背後をビシッと指差した。


「あっ! それなら……ジェズ、アレはどうだ!?」

「あれって……あー、なるほど」


 リヴェルが示す方を振り向いて、納得する。それは、彼にしては珍しくまともな提案であるからだった。

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