第百頁 移動要塞ザンバラ 3
接近戦が効かない相手に接近戦を申し込む、という矛盾もしくは無謀とも言える妙な指示に、元々短気なガガが声を荒げるのも無理は無かった。
『お前ら、アタシの中に居て安全だからって好き勝手言うのは百歩譲っていいとするぜ。ただ!言うならもうちょっと建設的な意見にしろよな!接近戦やってたらやられるんだっつーの!』
言ってる間に、ザンバラがこちらに向かってドスンドスンと駆けてきた。
ケリをつけようというのか、先程まで受たせて取る姿勢だったのが攻めの態勢に替わった。丸っこいのに無機質なデザインでドタドタ走る様には、説明しにくい気味の悪さがあった。
ブォンッ!
『くっ……!』
シンプルなパンチだ。大柄なので動作は鈍く芸もない。しかし炸裂すればそこそこのダメージを与えられるであろう大振りのパンチを、なんとか片腕で受け止めた。
それを待っていたかのように、ズババババ!と装甲のブロック群がガガの丸出しの腹部を直撃した。
『ぐええっ!!』
「しまった…おなか、出さない方が良かった」
『あ…あのなぁ…』
口では何やら言っているが、らいふはまた目を凝らしザンバラを観察する。
ガガは蹲りかけながらも何とか態勢を保つ。
「まだだ」
街田もらいふと同様だった。見ての通り眼はあまり良くないが、何かの好機を待っているかのような、鋭い目で巨大な塊を凝視した。
「どうしました?サイボーグ!付け焼き刃で巨大になった所で、我がザンバラの重圧に耐えられるワケないんですよ!」
ラサがモニタ越しに挑発する。
『…分かったよ』
観念したようにガガは立ち上がり、またザンバラに向かって行った。
彼女は理解したのだ。街田達が何を観察しているのか分からないが、自分はアクティブに動く身だ。ダメージも多いし、冷静になりきれない。
改造人間とて、さすがに巨大ロボをやるのは初めてだったので納得に時間がかかってしまった。その通り、冷静な判断や作戦は街田とらいふに任せれば良い。それがロボットと乗組員のあるべき関係だ。
『おらァ!』
片腕にブーストをかけ、ザンバラに殴りかかる。
ズラッ、と装甲がばらけ、ガガの前に壁ができた。視界が奪われる。
瞬間に、また個々のブロックからは鋭いビームが放たれる。何とか後方に飛び上がりやり過ごした。
「まだ」
「まだだな」
いちいち気になるが、イライラしてもいられない。相手と違い、巨大化しているとは言えこっちは半分生身なのだ。体力にも上限があり、続けていれば倒れてしまう。
そろそろ決めてくれよ…と心で愚痴りながら、続けた。
その度にザンバラの装甲は臨機応変に形を変えながらガガに反撃を行った。バラけては戻り、またバラけては戻る。
『あぁーっクソ!』
(妙ですね…)
馬鹿のひとつ覚えのように、やられてもやられても同じようにして立ち向かってくるガガには、流石にラサも違和感を感じずに居られなかった。
(何かを探っている?………まさか)
ラサがそれに気付いたその瞬間だった。
「今だ!!!!!」
街田とらいふが叫んだと同時に、ガガも彼らが何を考えていたのかを理解した。
『…そーいう事ね』
ガガが両腕を前に突き出し合わせると、ガチャリとドッキングし無骨な銃の形に変形した。
『おっ!ゴツいけどかっこいーじゃん』
これまでの闇雲な砲撃とは違う、一点集中渾身の一発。それは巨大なザンバラの全面、中心部より少し下に向けられた。
無数のブロックがひしめくザンバラの腹部、そのほんの一か所に穴が空いていた。大きさにしてブロックひとつ分。
『なるほど…破壊した分のブロックは補填できないから、当然その分は装甲化しても隙間になる…』
「そうだ。やっと気付いたか巨人。そしてその配列はランダムで、できる隙間の場所もランダムだ。小生とらいふはそれを見極めていたのだ」
「カムバックカウボーイカムバック」
何故気付かなかった。巨大化して思考が少しゆるくなっているのか、コロンブスの卵の法則なのか。状況が状況とは言え、ガガは自分の想像力の乏しさを悔やんだ。確かに、それは違和感としてガガの心に残っていた。
最初にブロックの攻撃を受けた時、背中から数発のミサイルを発射して迎撃した。その際にあったはずだ。1個か2個、確かにブロックのひとつを破壊した感触が。
ガガの放った砲撃が、ザンバラの表面の"隙間"を直撃した。
「バカなッ!」
ラサが取り乱した時にはもう遅く、衝撃を直に受けた勢いでよろけてしまった。バランスを崩した機体はあっけなく傾き、情けなくも片膝をついた状態を晒す事となった。
わずかに生まれた隙間が致命傷となる事を、天才は知らない。
「う、嘘だろ……嘘だ嘘だ嘘だッッッ!」
散々に攻撃を受け続けボロボロになったガガよりも、たった一撃で、少し地面に膝をついてしまったラサのプライドが受けたダメージは大きかった。
(僕は天才だぞッ!頭脳が優れているだなんて悪魔としては何のメリットもない能力を持って生まれ、両親にまで見捨てられたが…スリル様だけが僕を認めてくれた!スリル様が認めるという事は…悪魔としても最高峰のエリートって事じゃあないか!スミレやクライス…他の四天王なんかよりも僕は…)
「はっ!!」
ラサが立ち上がり気付いた時には、既にガガが凄い勢いでこちらへ向かって走ってくる真っ最中だった。怯んだ隙に一気にとどめを刺しにかかるつもりだ。人間らしい大雑把なやり方だが、今のラサにはあまりに分が悪い状況だった。
『さっさとぶっ倒して…こんな身体ともおさらばしてえんだよアタシは!』
「くそっサイボーグ!!くそっ!!」
砲撃を喰らい、穴が空いた部分目掛けてブーストがかかった拳を振り上げ、突っ込んだ。
半ばヤケクソ気味に、ラサも一部の装甲を展開しガガに照準を合わせる。
わずかコンマ1秒ほど。
それはガガが装甲の懐に入り込むか、無数の装甲がガガに遅いかかるかの差であり…
僅かにガガが遅かった。
ラサは感覚で相手を確実に仕留める事を理解した。大雨のように降り注ぐ装甲の散弾銃は今度こそガガに致命傷を負わせ、彼の勝利が確定する。
しかし、装甲の隙間を狙われ片膝をつかされ、プライドを傷つけられたた屈辱はどこへやれば捨て去れるだろうか。失敗をバネにまた改善しのし上がるという事をラサはした事がなかった。挫折を知らないタイプの天才の宿命のようなものだった。まだ年齢としては幼い彼が現状向き合うべき課題は、それだろう。
かくして、ガガは移動要塞ザンバラの装甲による一斉射撃から逃げられるはずもなく、ましてや攻撃から防御の態勢に瞬時にシフトチェンジできるでもなく、その全弾を身体で受け止める結果になった。
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