第九十頁 ドラマ「グルーヴ・ウェポン」
「よォォ〜〜くお似合いですことっ!!私の作ったデザインは言わずもがなですが、やはり素が良いですわぁ〜!」
「あら!自画自賛とは醜いわねぇ!?それより私のオーダーメイドのティアラは如何でしょうか花嫁様?」
「え、えと………」
いかにも女中です、という立場の2組…同じく悪魔だが…の強引なコーディネートに、花嫁様と呼ばれた少女は何と答えるべきか分からず、言葉を詰まらせた。
「カーリィさん、あなたデザインのドレスは何?せっかくの愛らしくキュートな猫ちゃんの尻尾が隠れてしまっているではありませんの。ほら、私のティアラは花嫁様ご自慢のまたまたキュートなお耳をしっかりフィーチュァーしております事よ」
「言ってくれるわねガーリィさん。私のセンスは貴女の墓石より、もっと言えば人間界のフジヤマより高いのですから、あえて尻尾は隠す事にしましたの。能ある鷹は爪を隠す、キュートな猫ちゃんは尻尾を隠しますのよ」
「ハァァ!?訳の分からない御託並べないでちょーだいませッ!このアバズレッ!今日という今日は決着を付けさせて頂きますわよ!」
「あーら臨む所よオジサン!いつもの"黒い球体デスマッチ"で今日こそ勝負をつけましょうかね」
「オ、オ、オジサンですって!?貴女!言ってはならない事がこの魔界にもあってよ!殺す!殺してやるわ〜ガーリィさんッ!37564!ミ・ナ・ゴ・ロ・シ・よォォーーッッ!」
「…………はぁ……」
いつも簡単な黒いワンピースしか着ていないから、ゴテゴテとした装飾のこのドレスは全くもって落ち着かない。あと尻尾は出しておいてくれたほうが良かった。ただでさえ歩きづらいのに、これじゃバランスも取れない。丈も合っていないのか、これでは地面にズルズル引きずりながら歩く羽目になる。こんなものなのかもしれないけれど、ドレスなんて着た事がないから分からない。
女中たちは益々エスカレートする下品な言葉遣いで互いを罵り合いながら、筋肉質な腕をフンフンと振り振り、ボウリングの素振りのような動きをしながら去ってしまった。
「あの人達、男ですよね…」
その割に、彼ら(?)に着替えさせられた事に不思議と抵抗感は無かった。正直言うと、裸までは行かずとも下着姿くらいは披露してしまった。「まっっ!脱いでもキュートねぇ!」なんて褒められた。
妖怪の自分が言うのもだが、悪魔もよく分からないなあ。
それ以上に、私はこれからどうなるのだろうか。
サシはひとり、不似合いな花嫁姿で立ち尽くしていた。
「花嫁さん」
消えた女中(?)達と入れ替わりに、ひとりの少年が部屋に入ってきた。
突然の事で驚いた。全く気配が無かったのだ。
少年の背はサシよりも低く、小学生くらいに見える。さらっとしたオレンジの髪と、国籍の分からない整った中性的な顔立ちが印象的だった。彼も悪魔なのだろうか。おそらくそうだし、国籍も何も無いに等しいのだが。
「もう少しの辛抱だよ、花嫁さん」
サシに「誰?」と聞く暇すら与えず、少年は口を開いた。
「ああ、まずは…サイバーローズ達が迷惑をかけたね。彼らは品がない。もうちょっと紳士的な方法もあっただろうに…これだから僕達悪魔が悪く言われるのさ。僕から謝っておくよ。まず、君に害を与えるつもりでここに連れてきたわけじゃない。どうせ彼らも説明していなかったでしょう?」
サイズは小さいがパリッと決まったスーツに身を包んだ、いかにもお坊っちゃまと行った風貌の少年は背筋をピンと伸ばし、腕を後ろに組んでサシの周りを歩き回りながらペラペラと一方的に話した。
「そうそう。あの女中達の事は気にしないでくれ。カーリィとガーリィはいつもああなんだ。ま、あんな風ではあるけどここに席を構えているというだけあって、実力は確かだよ」
なんとなくこの少年、見た目に反して喋ると可愛くない。自分以外の誰もかもを見下しているような、そんな高飛車さをサシは感じずにいられなかった。
「あのー」
「あっ!失礼。まだ名乗っていなかったね」
「………」
正直少年の名前なんてどうでもいい。何故こんな所に連れてこられたのか、何故こんな格好をさせられているのか、花嫁とは何なのか聞きたかった。
「僕の名はラ・クリマ・サンドキャッスル2世。長いからラサと呼んでくれ。魔王スリル様直属の四天王の一人だ。最強と言いたいところだけど、まあ…どうかな。そうではないかもしれない」
魔王?四天王?
高慢なのか謙遜しているのかよく分からない育ちの良さそうな少年は、名前も育ちが良さそうだった。
ここが魔界で、彼らが悪魔だという事はカーリィさん達に聞いたけど、詳しくはよく分からない。魔界って事は、カインさんもこっちに居るのかな。
情報が欲しい。サシは切実に思った。
「僕の能力は"グルーヴ・ウェポン"。使える場所は選ぶけど…同じ四天王のね、幻覚を見せるスミレの"ラズベリー・タイム"や…直球勝負なクライスの"火の鳥"も中々のものだけど、僕のは一味違う。何がって?頭の出来が違うのさ」
放っておいたらペラペラペラペラ喋るタイプだ。この子供の情報なんてどうでもいい。基本的には温厚なはずのサシもさすがにイライラしてきた。
「現に、クライスもスミレも…ついでにダスピルも…やられちゃったみたいだけどね。あの犬憑きの人間、ちょっと厄介だね」
サシはハッとした。
「犬憑き…?先生!?先生がこっちに来てるの!?」
「先生というのはあの人間の事かい?」
ラサが質問を質問で返した。
「先生に会わせてください」
サシはキッと猫目をつりあげてラサに強く放った。
「そういう訳にはいかないよ。そんな事をすれば僕達の計画が台無しだ」
ラサは不敵に振り返り付け加えた。
「僕達はカイン様の命令と計画のままに動くだけなんだからね」
サシはもちろんそれを聞き逃さなかった。
「カイン…様?カインさんがこれを命令しているの!?」
ラサはフフッと少しだけ笑い、時計を見た。趣味の悪い大きなドクロの装飾の掛け時計…でもなく、どこにでもありそうなオフィス向けの壁時計だ。
「おっと、もう時間だ。奴らが辿り着きつつあるようだね」
「待って!ラサ君!あなた達は…ぅわっ!!」
部屋から出るラサを追いかけようとしたが、不必要に丈の長いドレスの裾を踏んで思いっきり転倒してしまった。お約束だ。
バタン、と重い扉が閉じ、ラサは行ってしまった。
「痛ったぁ…」
今得られた情報を整理する。
黒幕はカイン。自分は囚われの花嫁。そして…
「せ、先生は…騎士様!」
なーんちゃって!
「ハァ……」
サシはヨロヨロ立ち上がりつつ、ため息をつくより他はなかった。
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