第六十六頁 CATALOGUE 3
「面会謝絶…?」
「はい、高木様は面会できる状態ではございませんので」
総合案内カウンターにて、ツンとすました感じの女性看護師がマニュアル通りという按配で答えた。
「危険な状態なのでござる!会わせて頂きたい!部屋の番号だけでも…」
「"危険な状態だから"、です。面会謝絶の意味はお分かりですか」
「聞き分けの無い女よ!やむをえん…」
頭に血が上った桜野あかね(偽名)はまさかの腰の刀に手をかけた。冗談ではない。このサムライ、斬るつもりだ。
「ストップストップストップ!どうどうどう!」
椿木どるが必死に制止した。病院で殺傷事件などたまったものではない。それ以前に銃刀法というものはこの町で機能しているのだろうか不安にすらなる。
「ごめんなさい看護師さん!では、回復されてから出直しますね〜」
どるは暴れる桜野を連れてカウンターを離れた。さすが鍛錬を怠らない武士の身体、凄い力だ。
「椿木殿!何を呑気に…今は一刻を争う時でござる!」
「桜野さん、落ち着いて。病院は静かにだよ」
「不覚!部屋の番号さえ分かれば…」
図書室の男子生徒に聞いておくんだった、と桜野は後悔した。もう一度戻るにも時間が無さすぎる。
「じゃ、行こう」
どるは葛藤しながら(元々)血まみれの唇を噛む桜野の手を半ば強引に引いた。
「行こうと申されても、何処へ…はっ!」
「部屋の番号。既に読み取ったよ…さっきの看護師さんから」
桜野の鋭くも輝いた瞳は、感動と尊敬の眼差しでどるを見つめていた。
221号室。"高木香奈様"のネームプレートの下には、確かに面会謝絶の札が掛けられている。
「とは言えほんとにいいのかな…まずいんじゃないの。高木さんが倒れた理由、何か心当たりがあるの?」
桜野は、説明は後でござると言わんばかりに扉を開け、病室に踏み込んだ。
病室に入った途端、
221号室。"高木香奈様"のネームプレートの下に、確かに面会謝絶の札が掛けられている。
「とは言えほんとにいいのかな…まずいんじゃないの。高木さんが倒れた理由、何か心当たりがあるの?」
桜野は、説明は後でござると言わんばかりに扉を開け、病室に踏み込んだ。
病室に入った途端、
221号室。"高木香奈様"のネームプレートの下に、確かに面会謝絶の札が掛けられている。
「とは言えほんとにいいのかな…まずいんじゃないの。高木さんが倒れた理由、何か心当たりがあるの?」
桜野は、説明は後でござると言わんばかりに扉を開け、病室に踏み込んだ。
病室に入った途端、
221号室。"高木香奈様"のネームプレートの下に、確かに面会謝絶の札が掛けられている。
「とは言えほんとにいいのかな…まずいんじゃないの。高木さんが倒れた理由、何か心当たりがあるの?」
桜野は、説明は後でござると言わんばかりに扉を開け、病室に踏み込んだ。
病室に入った途端、
……
「待って」
「どうかなされたか」
-221号室 高木香奈様 面会謝絶-
の札を前に、どるは違和感を感じていた。
「すっごい変な感覚があるんだけど」
何とも説明をつけ辛かった。
決して執筆ミスではない。
超能力者の勘なのだろうか。この部屋に普通に入る事は出来ない気がして仕方がなかった。
いや、むしろ何度か部屋に入ろうと試みたような気さえもする。
デジャブというものがある。以前に見た風景や状況を、繰り返し感じてしまう心理であるが、それのもっともっと瞬間的な形のような、何とも言えない奇妙な感覚だ。
「気が合うでござるな、椿木殿。拙者も同じ事を感じていた」
桜野は幽霊だからなのか、遥か昔の時代から時間を移動してきた存在だからなのか、同じ事を思っていたようだ。
「よし…椿木殿。下がっておられよ」
桜野が一歩引き、腰を落とし、腰の刀に手をかけた。
「妖刀・赤蜻蛉(あかとんぼ)…"抜刀・妖気退散(クランプ・ディスチャージャー)”!」
鞘から刀を抜く動作と同時に、桜野は開かれた扉の向こう、何もない空間をスッパリと斬った。
「桜野さん、英語苦手じゃなかったっけ…」
「何の事でござるか」
刀をおさめ、しれっとした顔の桜野に続きどるも病室に踏み込んだ。
ベッドの上に、高木香奈は居た。眠っており、口元には酸素マスクが装着されている。ベッドの周りには心電図や何やら専門的な機器が設置され、そこから延びる無数の管は痛々しく高木香奈の体に殺到していた。
壁にかけられたオーソドックスな時計は16時26分を指している。通常の面会ですらそろそろ終わる頃だ。
「椿木殿の能力は、眠っている者の記憶も読む事が出来るのでござるか」
「できるよ…分かった、桜野さん。彼女に何があったのか読み取ればいいのね」
「頼み申す」
桜野の意向に従い、どるはベッドの高木香奈に近寄った。
その瞬間、どるは目を疑った。
「桜野さん…この人」
「?」
「この"ベッドの上にいる人"…」
「どうなされた」
「高木さんじゃあない…違う人だよ。この人は知らない人…おばあさんだ」
確かに、ベッドには皺だらけの顔の老婆が横たわっていた。顔は何となく高木香奈に似ている。しかし、そこにいるのは見知らぬ老婆でしかなかった。歳は80、いや90はいっているだろうか。まさに大往生待った無しの佇まいで、病床に眠っていた。
「馬鹿な…名前が同じ別人でござるか」
「いや…待って桜野さん」
既に"サーチライト"を発動させたどるが告げた。
「高木さんだよ…間違いない。歳をとってるけど…星凛高等学校1年C組、高木香奈…あまり自信がない性格で、自分で自分の事をバカだと思い込んでいる。本を沢山読めば少しは頭がよくなるかなと思い、図書委員になった。好物はジャムパン」
どるは容赦無く彼女の情報を読み上げた。
「この人の記憶がそう言ってる」
「間違いなさそうでござるな。高木殿…何故老婆のような姿に…」
桜野がどるを全く疑わずに、この老婆が高木香奈であるという事を踏まえて言葉を漏らすのがどるは少し嬉しかった。タクシーや看護師の件もあり、桜野もどるを疑う理由など一切無かった。
『あの後、黒い本について調べてみた。カセットテープを何度も何度も繰り返して聞くうちに気付いた。こんな簡単な事に気付くのに時間がかかっちゃった。やっぱり私はバカだな…』
どるは彼女の記憶を読み上げる。本人は眠っているので、まるで生霊が降臨しているかのようだ。
『この音声は、逆回しってやつだ。あのカセットデッキは逆再生ができるから、試しにやってみた』
「成る程、逆再生…」と、どるは自分で言って自分で相槌をうつ。器用だ。
桜野はじっとどるの言葉に耳を向けていた。
『びっくりした!これ、日本語だ。日本語で単語を話してるのを、逆再生してるだけだったんだ!』
衝撃の事実。ここにきて普通に日本語が出てきた。
『でも、ここまでだ。私は突然、これまでにない味わった事のない疲労感に襲われた。ふと手を見ると、皮膚がおかしい。まるで何十年、いや百年近く生きたかのような老人のような皮膚になっていた。誰か、誰か助けて!椿木さん!!桜野さん!!』
「椿木殿!これは…」
「ここで記憶が途切れてる…やっぱりこのお婆さんは高木さんって事なの…?」
この老婆が高木香奈である事はこれで分かった。この記憶から彼女は何かをきっかけに突然"老化"したのだという事は間違いないが、何がどうなって、このような結果になったのかは謎だった。
ただ、原因は確実にあの本とカセットテープだ。
「椿木殿。これはまずい。ここから離れた方が良い」
「で、でも…高木さんは」
「高木殿は…拙者に任せられよ。貴殿だけでも」
「でも」
バサッ。
ふと桜野が視線を落とすと、床に制服が落ちていた。深緑色の、星凛高等学校の女子のブレザーだ。上着とスカートが、無造作に床に落ちており…
椿木どるの姿は無かった。彼女は、着ていた制服だけを残して忽然と消えてしまった。
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