第二十一頁 パンク作家とライブハウス 7
自身の武器で脚と背中を撃たれ、満身創痍状態の改造人間・松戸ガガは、かろうじて残った背中の端子からファンネルを出して街田康助を狙い撃とうとする。
ガッシィイイィン!
金属音が鳴り響き、ファンネルは何らかの力を受け床に叩き落とされた。
「え!?」
ガガが目を向けると、ファンネルには鋭い傷がつき破壊されていた。これは動物の爪痕だ。鋭利で、猫がひっかいたような…。
「アスミ…じゃあないですよ、ガガさん…」
ガガがもたれかかる金属製の手術台。その上、麻酔で眠らされていたはずのサシが起き上がり、猫の爪を翳していた。
「な、何故!?麻酔で眠っていたはず…」
ガガは慌てて振り返った。
「妖怪だからですかね…麻酔、あんまり効かないんだと思います」
とは言え、ぎこちなく動く身体を動かしてのろのろと手術台から降りるサシ。
「ガガさん。私はアスミさんじゃない」
「うそ…その顔……アスミ、アスミだろ…アスミ!目を覚ませ!あんたは妖怪なんかじゃあなくて…」
ガガが自分を見下ろすサシにズルズルと寄り縋い懇願した。大声を出すたび、背中からブシュブシュと液体が漏れる姿が痛々しかった。
「アスミ、もう一度…ねえ!私と一緒に!!!あ
バチィィィィィィィン!!!!
途端、ガガの頬に思い切りサシの平手打ちが炸裂した。
空気が完全に張り詰める。
「目を覚ますのはあなたですよ、ガガさん……いいですか」
サシは深呼吸をした。
「サシ!私の名前は!サーシ!!
これは先生から貰った大事な名前!
聞いて!
サーーーーシ!!
私の口を見てッ!!!
サーーーーシ!!!!!!!
分かりましたか!!!!!!
サーーーーーーーーーシーーーーーーーー!!!!!」
手術室中にビリビリと響く怒号にも似た叫び。
ガガも、カインも、街田までもが「マジで」といった表情で呆気に取られていた。こんなにでかい声が出るのか…?街田だってこんな彼女を見るのは初めてだった。
「は…………はい…………」
頬を赤くして目を見開き、放心状態のままサシを見つめ返事をするボロボロのガガ。
「良かったら…お友達から始めましょうか!」
胸元まで服がはだけ、騒動で髪もボサボサのままにっこり笑いかけるサシ。
妖怪、猫娘サシ。見た目14歳。場合によってはほとばしるほど怖い。
………
松戸ガガ…最も、当時は違う名だったが…と暮井明日美は親友であった。
明日美はあの時の事件に巻き込まれ、身体の半分を吹っ飛ばされて死んだ。アタシがこんな身体でなければ、彼女とアタシは出会わなかったし、幸せな人生を過ごしていたかもしれない。いや、彼女の人生は幸せだと言えただろうか。私は…前に進めていなかった。進めたと思い込んでいただけだった。
でも、ある妖怪の少女に目を覚まさせられた。明日美にそっくりな、あの子に…。あの子は明日美じゃない。明日美はもうこの世に居ない。ただ…あの子に出会ったのは運命なのかもしれない。あの子の名前はサシ。無邪気だけど、何か不思議なものを秘めた…
………
「先生!プラモデルを買いたいんですが」
「唐突になんだ。プラモデル?」
駅前を歩く小説家の男と妖怪の少女。またも唐突なリクエストに、街田はやれやれという具合で適当に返答していた。
「プラモっすか!いいっすねえ!あれは人間の英知の結晶だと思うんす!F-1?ガンプラ?何がいいっすかね!」
一緒に居たカインが話を盛り上げる。悪魔がプラモデル好きなのか。
「やっほーーーーサシちゃーーーーーん!」
突然煩い女の声が聞こえ、3人は一斉にそちらを見た。
「ひっ…」「げっ!」「ム…」
赤い女。ガガだ。カインにやられた身体はどうやったのか完全に治って…修理されており、元どおりラフな笑顔を輝かせてこちらに駆け寄ってきた。
「サシちゃーん元気〜〜〜?」
駆け寄った瞬間ギュッッッッとサシを抱きしめ胸元を押し付けるガガ。今度は力も優しく暖かいハグだったが、サシが「ヒィィッッッッ」と怯えるのは必然だった。
「あんた、まだ…」
カインが警戒する。
「なんだおっさんと悪魔、お前らもいたのか。よしてくれよ、あたしはもう冷静だよ。サシちゃんは恩人だぜ。目が覚めたんだよ、サシちゃんのおかげでな。あたしはサシちゃんに着いてくぜ!ねーーーッッッッ!」
ハグしながら猫娘に頬をすりよせる改造人間。
「ううっ、やわらかいけど…あ、暑苦しい…」
「あ、俺バイト行ってきますね!そんじゃ……」
フォン、と魔方陣に消える悪魔。
「おい!この状況で小生を一人に…」
「サシちゃんは胸小さいんだなァ〜〜でもさ、あたしはどっちかっつーとこんくらいが好きだぜ!安心しなよ!」
「あっ、ひゃっ………」
(やれやれ…)
街田の平穏はまた一つ遠のいた。
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