第二十頁 パンク作家とライブハウス 6
「あんた、サシさんに何してうおおおあああああ」
颯爽とヒロイン救出に現れ、かっこいい台詞を言う最中にカインは目を覆った。ブラジャーにホットパンツ姿のガガ、手術台の上には胸のあたりまで衣服が破れ、はだけたサシが眠っている。すれ違うどころか好きでも嘘すらつけないほど純情なカインには目に毒な光景だった。一体ここで何が起こっていたのか。もしかして野郎は入ってはいけない秘密の花園だったのでは。しかし、ガガが手に持つメスや謎の器具を見て、異常事態には違いなかったという事を理解した。
「サシさんに何してんだって聞いてんすよ!ついでに服着てください」
片手で顔を覆いながらガガを指差すカイン。服装も相まって、ビジュアル系バンドのアーティスト写真のポーズぽくて少々かっこよかった。
「いきなり入ってきやがって…アタシとアスミの邪魔をしようってのか?何者だテメーは!」
ガガはぐっと腰を落として構えると、背中より露出した端子から小型のミサイル砲のような物体を4つ繰り出した。
「消えな!"フォア・プラグス"!!!」
ファンネルのようにガガの周りを浮遊する物体から小さなミサイルが放たれ、カイン目掛けて突っ込んでいく。
「うおっ!D・T・D(ダーカー・ザン・ダークネス)!!」
カインの目の前に大きなブラックホールが現れ、ミサイルは吸い込まれていった。しかしカインがその瞬間、違和感に気付いた時にはもう遅かった。D・T・Dに吸い込まれたミサイルは2個。実際に放たれたのは4個だったはずだが……
「ぐあああっ」
両側から時間差で残り2発のミサイルが撃ち込まれた。右脇腹と左肩、もろに直撃をくらいカインは倒れ込む。
「テメーも人間じゃあないな…さしずめ悪魔と言った所か?全身科学の最先端なアタシにはナンセンスだがよォー…テメーは用無しだ!そこで見てろ!黙ってそのままでな!」
「お…前……サイボーグか……なるほど…」
「サイボーグじゃあない、改造人間だ!二度と間違えるな…改造人間の方が悲劇性が増すだろ?サイボーグなんてのは"自ら進んでなってやりました"みたいなニュアンスがあって嫌いなんだ」
ガガは持論を繰り広げるが意味がよく分からない。改造人間たる仮面ライダー、サイボーグたる009、どっちも悲劇性マックスなのだがカインは痛みもありそれどころではなかった。回復は人間より早いが時間が必要だ。
「アスミ…あんたの友達ってのはこいつなのか?予定変更だ…アスミは絶対に外には出さないし誰も部屋には入れない…誰にも触れさせないからな…さあ、始めよっか……」
ガガは血を吹き出しうずくまるカインを尻目に手術台上部のライトの位置を調節する。
「くそ…させねーっすよ…」
ダメージの回復を待たず立ち上がろうとするカイン。瞬間、ガガの左腕が外れ、カインの首元を勢いよく掴んだ。
「うっ!!………ぐ………ぎぎぎ………」
「しつこいぞ悪魔…非科学で低俗な野郎がよォー…お前らはどうすればくたばるんだ?このまま首を絞めりゃいいのか?一思いにちょん切っちまうか?」
ガガはそのままカインの前にしゃがみ込み、右手に持つメスでカインの首をそっと撫でた。スッと切れ目が現れ、血が流れる。
「い、いい……すね、この眺め……最高……すね……」
「ん?………はっ!」
こいつ、あたしの胸を見てやがるのか。ふざけてるのか?この状況で…
「その…角度が……いいんすよ…マジで……カタログっつーか…ベストっつう…か……」
「意味の分からん事を…」
その瞬間ガガの背後にブラックホールが現れた。と同時に、2つのミサイルが発射された。片方はカインの前にしゃがみ、露わになった脚の先…アキレス腱の辺りを目掛けて勢いよく撃ち込まれた。もう片方は背中のど真ん中。人間であれば致命傷!
「ああああああがああああっっっっ」
絶叫と共に床に転がり込むガガ。カインの首元の腕の力も緩まり、ゴトリと落ちた。
「D・T・Dに吸い込まれた物質は必ずどっかに吐き出されなきゃいけないんすよね…あんた、アキレス腱ってあるのかどうか分からないっすけど…立てないんじゃあないっすか」
「て、て……めえええええ………」
ガガの脚、膝から下は全て機械になっている。アキレス腱は当然無いにしても、バチバチと回路が絶たれショートしていた。背中にも穴があき、血と、血ではない何かが混ざり合ってドロドロと流れ出し床を染めていた。
「あ……アスミ…い、今…そっちに…」
動きを封じられたガガは手術台に寄り添うように手を掛けようとする。
「暮井明日美(くれいあすみ)、20XX年X月X日没…享年15歳、だったかな」
「だ、誰だ…ハァ、ハァ………次々と……」
部屋の入口に立っていたのは着流しに伸びた髪、眼鏡の男。小説家・街田康助だった。
「街田さん、何やってたんすか…D・T・Dで前もって家の中に転送してたっすのに」
「お構いなくだ悪魔。作品のネタを見つけたので考察しているに過ぎない」
「お前……あんときのオッサン…か…アスミの……アスミの何を…知ってんだよ…」
台にもたれかかるガガが睨みつける。
「オッサンとはご挨拶だな。まあいい」
街田は不敵に続ける。
「4年前…隣のN県K峠にある化学工場が作業ミスにより爆発、死者18人…同日工場の側に不自然に地中に埋められた女子中学生の変死体が発見される」
「や……やめろ」
「当時はけっこうニュースになっていたので覚えているが…確か天皇の生前退位表明だったか、人気アイドルグループの解散報道だったかがありすぐに風化したのだ。その少女が暮井明日美…お前の親友だったのかね。確かにサシにうりふたつだ。さすがに目元はそいつのように猫臭くはないがな」
街田の手には一枚の写真…確かにサシにそっくりな少女が写っていた。街田が先程述べた日付が書き添えられている。ガガの自室、デスク横に貼り付けられていたものだ。
「それ以上喋んじゃねえ!アスミを…アスミの名を……気安く呼んでんじゃあねえぞ!」
ガガはかろうじて1つだけ破壊を免れた背中の端子からファンネルを出現させる。
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