選択肢と私の未来
小道けいな
選択肢と私の未来
何も知らないほうがいいのか、選択肢が多いと喜ばしいことなのか。
私は今になって悩んだ。
悩んだときには遅い。すでに歩いてきた道を胸を張って言えるか、何もなかったものとしてやり直したいと願うか。
選択が誤っていたのか、これで良かったのか。
わからない。選択肢があった者の愚かな言か、自慢なのかすらも私はわからない。
幼き頃、未来は父や母のようにやってくると思っていた。
父のように生業を得、愛しい人と結婚し、妻と子を養い、穏やかに生きる。
母のように愛しい人と結婚し、子をなし、夫を支え、地域を見守り穏やかに生きる。
それがあの頃の当たり前。
いろんな職業があるのは見えてわかる。友の中には商人の子もいたし、農家の者もいた。互いに支え合い、みな、大人になったら親のようになると考えていた。
才能があるとか、次男以下だとかで聖職者や軍人、職人など親とは違う職につくこともあるが、長子ならおおむね親の後を継ぐ。
だから、長子であり、才能もないと思っていたのに選べる未来があり驚いた。
私は選んだ、新しい世界を。
人を魅了してやまない芸術に属する世界を。
工房に入り、私は学んだ。
工房に入れたことは重要で、将来その道を歩めるという保証の一つになる。
私は筋がいいと言われ、同じ徒弟の中で群を抜いた。
それで、終わりだった。
筋が良いのとセンスがいいのは別。無難でもいいけれど、売れるのは個性が必要だと言われる。
それは分かっている。技術が身につくことと称賛される物を作るのは違うのだと。
他の徒弟が作る物の方が素晴らしいと私は気づいている。
だから、頑張って作るしかない。
作って作って、売れない、売れ残る。
徒弟の中では師匠に認められ独立する者もある。私は後進が出ていくのを見つめ、先輩として新しい人を迎える。
そこにいるから後進が師匠に認められ出ていくのも見る。また、希望を捨ててやめるのも見る。
なぜ辞めることができるのか、私は不思議だ。
一方で自分こそ、辞めないといけないと考えるときがある。芽が出ても花がさなかない職人だから。
工房にいる限りただの世話役であり、未来があるわけではない。
徒弟が手にする少ないお金を貯めたわずかなお金。出て行っても仕事などない。小間使いのままでも工房に置いてもらえるならそれでもいい。
帰る家ももうない、弟妹が後を継いだから。
私はここにすがるしかない。
悪口を言われても。
ふと違う今はなかったものかと考える。
やめようとした瞬間を。
この道を選択した瞬間を。
すでに、遅い。
退くに退けず、進むに進めない。
選択肢と私の未来 小道けいな @konokomichi
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