第2話
「春川恋町のファン……って」
私は浦西くんの顔をまじまじと見つめた。あの、いつもクールな浦西くんも、恋愛小説を読んだりするんだな…って!
そんな事で驚いている場合じゃない!浦西くんが春川恋町のファンだという事は、私が浦西くんをモデルにして書いた恋愛小説を、よりにもよって当人に読まれてしまったということになるじゃないか…!
「あれを、よ、読んだの?」
「…おう」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だった。まさか、こんな事になるとは。
帰り道、私はずっと上の空だった。浦西くんが私の小説を読んでいたという事実が、あまりに衝撃的すぎた。
「でも良かったんじゃん?奏のファンが居たっていうのは。しかも、それが片思いの相手なんてね」
そんな状態の私を見て、亜紀はあっけらかんとそう言った。確かに、自分の小説を好きだと言ってくれる人が、亜紀以外にいたという事実は凄く嬉しい。片思いの相手でなければ、私は欣喜雀躍していた事だろう。だが、相手が浦西くんともなれば話は別だ。手放しには喜べない。
「だって、だって、あの小説全部、浦西くんがモデルなんだよ?それを浦西くんが読んでたなんて…」
考えただけでも顔が熱くなる。
「まぁ、恥ずかしいよね」
そう言って、ポケットからスマホを取り出す亜紀。
「マサトくんの全部が好きなの!全部全部知りたいの!ずっとマサトくんのこ…」
「亜紀!私の小説声に出して読むな!」
完全に亜紀のおもちゃだ。まさか浦西くんにこの小説を教えたのは亜紀じゃあるまいな…
「私が浦西くんに教えるわけないでしょ」
「あ、そうですか」
深いため息をついた。
「ねぇ、どうやって私の小説見つけたの?」
翌日の昼休み、浦西くんを屋上に呼び出した。一緒にお弁当を食べながら、こうなった経緯を聞こうと思ったのだ。
「どうやって…っていうか、もともと恋愛小説読むのは好きなんだ。よく、あのサイトで探して読んでる」
「えっ、意外」
「…よくそう言われるよ。優介に打ち明けた時も」
「優介って、青山くん?」
「うん。俺が恋愛小説好きだって言ったら、すげえ驚いてた」
「そりゃそうだよ。浦西くん、クールなイメージあるもん」
「そうかな」
浦西くんが照れたように笑う。つられて私も笑った。
「俺たち二人きりで話すのって珍しいよな」
浦西くんが不意に私の方を見て言った。ずっと浦西くんの横顔を見ていた私は、慌てて目をそらした。
「一週間くらい前に、春宮さんと川辺さんが春川恋町の話をしてるの聞いて驚いたんだ。Web小説の中でもマイナーな作家だから、僕以外に知ってる人がいるなんて、意外で…あ、マイナーとか言ってごめん」
何か言いたげな私の視線を感じ取ったかのか、浦西くんは手を合わせて謝罪の意を表した。
「それで、二人の会話を注意して聞いてたら、春川恋町は春宮さんなんだって、分かったんだ」
「なるほどねー…」
浦西くんの説明に納得した私は、最後の玉子焼きを口の中に放り込むと、弁当箱の蓋を閉じた。
「春宮さんってやっぱり、小説家志望?」
浦西くんの問いかけに、慌てて玉子焼きを飲み込む。
「あ、うん」
「小説家か…人に夢を与える仕事だよね」
「浦西くんは、将来の夢とかあるの?」
「俺は、プログラマー」
「プログラマー?」
「うん。ゲームを作るんだ」
浦西くんの目は輝いていた。
「すごいね」
「ああ」
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