第90話

side ハルオミ

「アストレア」

「ハルオミ様!」

アストレア、セリスにはけがはなく、無傷である。

この変態アストレア日に日に厄介になってきてんな・・・

タウの様子を見終わった俺はまっすぐ目的の人物には向かわず、アストレアの方にきた。

もちろん早く茶番を終わらせるつもりだが・・・どうせならしっかりと思い知ってもらおうじゃないか。

はっきりと痛感して現実をたたきつけてやる。

そんなことを考えていると、目の前には冷や汗をかいているアストレア。

いったいどうしたんだ?

「ハルオミ様・・・そんなあくどい顔をしていたらみなさん怖がりますよ?」

「え?」

俺そんな怖い顔してたか?

「ええ。さっきまでシルちゃんの戦い見て固まっていた二人が戻ってくるくらいには」

『お、おい!ハルオミ!!!』

ん?なんか復活したシーさんがめっちゃ慌ててんだけどどうしたんだ?

『あの美少女バージョンのシル本当にシルなのか?!』

さっきまで固まってみていたのはシルの方だったのか。

あっちの方はなんか炎龍帝もおとなしいし大丈夫そうだな。

『本当に本当だな?!私のことはっきり覚えているんだよな?!敵認定されてないか??!』

「ん?ああ、そうだよ?」

なんだよ、妙に慌ててんな?

『あやつ!せ、精霊を!!しかも大精霊といわれておったあのイフリートを喰いよった!!!』

「お、落ち着くであります!」

そして、セリスの周りをグルグルと周るシーさん。

「・・・なあ、魔力を喰うってやつってこの世界にはいないのか」

「いえ。一応存在は確認されています。ただ・・・」

「ただ?」

「ここ十数年は討伐されて以来見たものはいません。特に大精霊を完全に吸収するなんて特殊なものは50年近く再発見されていないそうですよ」

『そうじゃ!!』

お、復活したのか。

『魔力喰らいは魔力を莫大な力食べたものしかならない突然変異!!一切の魔法が効かない私たちの天敵なのだよ!!』

「なるほどな」

『ねえ大丈夫?!あの子私のこと食べないよねえ?!』

恐怖のあまりキャラ崩壊してんじゃねえか。

どんだけ怖いんだよ・・・

「大丈夫だよ。ちゃんと天使シルだから」

「ハルオミ殿はなぜいつもそう呼ぶのでありますか・・・?」

ん?何言ってんだよ、セリス。

俺の大事なスーパー可愛いシルが天使と呼ばれない理由があるか?いやない。

あの姿になったときはうっかり大天使かと思ったよ。

あれじゃ、さらに悪い男が近寄ってこないか心配だ。

「・・・親バカが悪化しています」

なんかアストレアがなんか言ったが気のせいだな。

「く・・・」

 おっと、すっかり忘れてた。

 ここに来た本来の目的を忘れるところだった。

 そう今回というか、この茶番を終わらせるキーパーソン。

 そこにはかなりボロボロの剣鬼の娘がいた。

 足止めしとけって言ったが、これ足止めじゃなくて鎮圧できたんじゃね?

「え?だってハルオミさんがとどめさすつもりなんですよね?」

 アストレアがまたもや俺の心を読んで意外そうにつぶやく。

 いや、とどめさすだけに来たとか鬼畜野郎じゃねえか。

「・・・てっきりめちゃくちゃ怒っているから鬼畜野郎ぶりにトラウマを植え付けるのかと・・・今回は少女に」

 その言い方やめろ!!

「前の被害者はユリア様ですね」

 被害者とかいうなよ!最近は優しくしてるわ!!!

『私たちのサポートなぞいらんようだったよ。本当にハルオミとアストレア・・・それにシル様は未知数だな』

 そうやってこっちの方を見ながら苦笑いをするシーさん。

 というかさらりとシルの評価と立場がだいぶ変わってんな。

 本当に怒らせたくないし、敵にもしたくもないのだろう。

「・・・こっ・・・ち・・・をみ・・・な・・さい」

 ふらふらと立ち上がる剣鬼の娘。

 しかし、その体を支えるために地面に突き刺さる大剣。

 その大剣にはまったく傷がついていない。

 その大剣で守られた部分はまったく傷はないが・・・

 あれも魔剣なのか・・・ちょっと興味出てきた。

 その割にへとへとなのはどちらかといえばドレイン系の魔法によりものだろう。

 最近俺のこと狙ってくるときに拘束魔法にドレイン系混ぜながらじわじわと弱らせてから狙ってくるんだもんな・・・

 何回、天使シルに悪影響だから俺とシルが寝ているときには特にやめろっていってんのに聞かないもんな、変態アストレアは・・・

 最近は一緒に寝たいと言ってくれる天使シルがいてくれるおかげで夜襲われる回数減ってきたんだけどな・・・それの反動だろうか・・・

 そのせいでシルに変態認定されているのに・・・

 っと話がずれたな。

「そりゃ、人数がこっちの方が多いんだからそうなるわ」

「・・・それでもあなたを」

「できると思ってんのか」

 ビクッ!

「・・・で、できる・・・!いや、私は剣鬼の娘・・・できる。だから、あなたを捕らえてお母さんの居場所も教えてもらう・・・!私はそう育てられた!!」

 そんな風に強気でいるふりをする剣鬼の娘。しかし、その手は疲れからなのか俺のスキルではない威嚇でなのかはわからないが震えている。

 もし、威嚇の方なら少し威嚇しただけで恐怖心の方が勝ってんじゃねえか。

 ステータスでは威圧系無効とかいうスキルあったはずだろ?

 確かにスキルで威嚇しているわけではないから効くかもしれないが、それでもこういう修羅場は前にも冒険者だし経験しているはずだろ?

 そんなにスキルなしで怖い顔してんのか俺。

「怖い顔っていうか、睨まれたときにナイフで斬りつけられるような感覚がするんですよ。ハルオミ様の威嚇って。前の世界でも何回かそれで助けられた人が何人もいますよ」

 そうなのか・・初めて知った。

 確かにチンピラとかカツアゲとか見た時に助けに入って何回か睨んだだけで逃げてった奴はいたなあ。

 あれってそういうことだったのか。

「ちなみに私はそれ初めて見た時ぞくってしてしまいましたよ・・・!あの頃からそういう感じでハルオミ様に罵倒してもらいたいって思っちゃいましたよ」

 ツーことは何か?この俺限定のどMは俺自身にも原因があるってことか・・・ 

 ・・・い、いや・・・まあ、その件は後でいいや。

 俺は少し後悔しながらも今は剣鬼の娘に集中しようと考えたのであった。

 立ち上がるのに時間がかかりそうだったので、今回のプランを考える。

 今のセリフやタウの記憶から見た通りこの子は別に悪くない。

 それに行動がおかしいのもごまかそうとしている。

「アストレア」

「何でしょうか、ハルオミ様」

「とりあえず、残りは俺が片付けるからみんな一か所に集まっておけ。全員生存の確認はしているが、ヘファスの弟子たちもケガしていないか確認。ひどいならケガを治してやってくれ」

「はい、わかりました」

 俺は少し切り替える。

 自分が動きやすく俺の仲間が安全なように。

「シーさん」

『なんだ』

「お、復活したな」

 凛とした姿に戻ったのをみてつい口走ってしまう俺。

『…さっきのは忘れてくれないか?』

「おう。じゃあ、お願いする内容を言うが大丈夫か」

『もちろんだ』

「なら、シルの中にあるかもしれない精霊の感覚を探ってくれ。乗っ取れるような意識を残しているかもしれない。シル本人だけだとわからないこともあるはずだから」

『わ、わかった』

 あーさすがに怖いのか・・・

 普通に超絶いい子なんだけどな。さて、あとは、

「わ、私は残してくださいであります!」

 俺がアストレアに頼んでわかりやすい位置に移動してもらおうと思っていたのだ。だが、剣聖セリスは真剣な表情でこっちの方を見てそう俺に告げていた。


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