Second memory 91
= second memory 91 =
PCの前でしばらく固まっていた。無機質な文字だけど私には特別。待ち続けた ーs ー。
生きていてくれた。それだけで涙が出た。今はそれでいいと思えた。返信は
「ありがとう。待ってる。約束を忘れないで。」
気持ちが溢れすぎて言葉にならない。
SHINからの返信はないまま6月11日がくる。あの日から1年、彼の記憶の中で今日はどんな日になっているんだろう。
私たちの記念日で、妹みたいなツーちゃんに刺された日。幸せな日なのか辛い日なのか。
私にとってはすべてが変わった日。
素晴らしくも。悲しくも。
どちらの意味でも決して忘れられない日。
台湾に来て初めて、会社の休日以外でお休みをもらった。山根さんは二つ返事で許してくださった。
微かな期待はある。生きているから。もしかしたら。それは微かな期待。
オーナーがあれほどまでに私の帰国を阻止しようとするのには、それなりの理由があるはず。SHINがここまで自分を隠すのも。それが解決したとは思えない。
一人で部屋に籠っていた。
SHINからメールがあったことを、ゴリに知らせていなかったことを思い出す。あわててメールを打った。SHINに言えなかったことも書いた。
いったい日本で何が起こっているのか。
なぜオーナーはそこまで私の帰国を阻止しようと思われたのか。春節の時はそこまで聞けなかったけど、今はかなり冷静に文章にできた。
もし、SHINがいきなり来ても大丈夫なように、小さな部屋を片付けて花を飾った。
二人分の夕食を準備した。
そしてDVDを観て、ギターで歌った。
一曲だけ弾けるようになったよ。弾きながら歌えるようになったよ。あなたが弾いてたような弾き方で。聴いてほしい。25歳の私のこの歌も。
この歌をあなたが初めて聴いてくれたのは、私が二十歳の時だね。
あなたがあの部屋で珍しくアコースティックギターで歌ってた曲。意味はわからなかったけど、歌いたくなって教えてもらった。
コードが押さえられなくて、ギターのネックの持ち方が悪いって、変な癖がついてるって言ってたね。
背中から覆い被さるみたいにネックの持ち方を教えてもらって、(canon)を弾いた時のことを思い出していた。
背中の温もりが心地よかった。
そのうちkissになってそのまま。
あなたに愛されながら、頭の中でさっきまで奏でてくれてたギターの音色と歌声が何度もrepeatしてた。
そしてあなたと繋がったまま不思議な一体感と浮遊感に襲われて、歌のこともギターの練習のことも忘れたんだ。
間違いなく私たちは、二人でひとつなんだと確信していた。
あなたはどうだったんだろう。私と同じ感覚に包まれていてくれたのかな?
あの時からちゃんと練習してたら、今頃もっと上手に弾けたのかもしれないね。
あのあと、J さんにお願いしてCHERRYのレパートリーに入れてもらったんだよ。
原曲を聴いた時は少し驚いた。感じが全然違ったから。
でも歌詞の意味を調べて、間違いなく私たちの歌だと思った。私の誓いだと思った。
だからCHERRYの時も、必ずあなたを想いながら歌ってたんだよ。言わなかったけど。
きっと感じてくれてたんだよね?
あなただけのために歌ったのは21歳のあの夜が最初。あなたは聴きながら眠ってくれたね。私の大好きな寝息をたてて。
そして出発前に。
あなたがいない4か月間、毎日囁き続けた。
祈りをこめて。誓い続けた。
そして昨年。最後に会ったとき病院で。
傷ついたあなたの頭を抱えて歌った。
あの時、ゴリに聴かれるのがあんなに恥ずかしかったのは、最初に教えてもらったときの浮遊感と一体感を思い出していたからかもしれない。あなたと繋がっているような錯覚。
そんなことあの瞬間はわかっていなかったけど。
(time after time)
歌いながら巡る思い出は、あたたかく、辛くせつなく、愛しい。
SHINのすべてと、彼に愛された記憶を甦らせる琴線になる。
携帯の呼び出し音が鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます