Second memory 86

= second memory 86 =


家族の見送りは断った。空港には一人で行った。

ちゃんと一人で待つ。なんだかんだ言って、今までいつも助けてもらってた。ゴリとカバに。

辛いときも淋しいときも、一人でちゃんと乗り越えたことなかったよね。

強くなんてなれないはずだよ。そのくせ強くなったつもりでいたからたちが悪いね。だから今回は一人で。


ゴリはその日のうちに私からかかった電話に少し驚いていた。

『いいのね?』

って言うから

「なるべく早く。」

と答えた。そのままカバに代わってくれる。

カバは

『よく決心したわね。』

って誉めてくれた。

『帰ったら会いましょうね。』

って。やっぱりほんとは頭撫でてほしいよ。


出発の前日の夜、SHINが電話をくれた。

公衆電話から。

『体に気をつけて。頑張って。たくさんの人の笑顔を作っておいでね。僕も一日でも早く元に戻るから。』

「台湾に来てね。ゴリに住所連絡する。それから新しい携帯の番号とメアドも教えてね。それまではPCにメールするから。そうだSHIN の部屋の掃除できてないよ、ごめんね。」

『大丈夫だよ。あの部屋にはしばらく戻らないから。多分、退院したらそのままオーナーの家に厄介になると思う。』

そうなんだ。退院してすぐに一人では大変だもんね。

「落ち着いたら帰るよね、あの部屋に。私、あの部屋大好きなんだ。窓から見える大きな木も。公園から聞こえる子供たちの声も。古いテーブルも。」

そこから見えるピアノも。

ピアノを弾くあなたの姿も。

初めて結ばれたベッドも。

ベッドから見える月も。

「いつ頃来れる?」

『・・まずは8月が終わってから。僕が完治して、いろいろなことが終わって、そして時を見て。かな。』

遠いね。でも待ってる。

「待ってる。歌いながら待ってる。楽しいを創りながら待ってる。飛んできてね。」

『小銭なくなったから。切れるまで話そう。』

「うん。SHINも体に気をつけてね。お腹の傷にもkissしてあげる。背中にもお腹にもkissしてあげる。すぐに治るよ。」

『そうだね。ありがとう。cherryありがとう。元気でいて。笑っていて。夢を叶えるんだ。僕も頑張るから。ずっと君らしく。』

「SHIN、秋ね。秋に来てね。待ってるからね。」

『最短でそこだね。cherry、一度だけ呼ばせて。朋・・朋、愛してる。

Je vous protege・・Vous devez trouver le bonheur・・

cherryも朋も愛してる。』

SHIN?

「・・私も愛してるよ。誰よりもあなたを一番愛してる。待ってるから。ありがとう。次会ったら目を見て呼んで!朋って呼んで!両方で呼んで!SHIN、なんて言ったの?フランス語わかんない。」

『いってらっしゃいだよ。』

「いってきます。待ってるからね。来てくれるの、待ってるからね。」

『ありがとう・・』

電話はそこで切れてしまった。わかっている。仕方なく切れる電話でかけてくれたんだね。ゴリの携帯だと切れないもんね。私きっと切らないもんね。電源がなくなるまで。

いってきます。秋に必ず会いに来てね。必ず。


お母さんには少し話した。詳しくは言わなかったけど。私たちがしばらく会えないこと。だけど彼はまったく悪くないこと。すべて間違えていること。その発端は私にあること。流産のことを話したこと。彼はとても謝ってくれて、お兄ちゃんの結婚式が終わったらお母さんに会いたいって言ってたこと。でも少し先になるだろうこと。

お母さんは黙って聞いてくれていたけどひとつだけ質問した。

『彼は私と二人で会いたいって言ったの?あなた抜きで。』

頷いたけど、そこ?

そしてお兄ちゃんの結婚式には出ないと告げた。祝電は打つから、仕事で海外から帰れないことにしてほしいと。お母さんは

『残念だわ。』

と言ったけれど、それを告げられたお兄ちゃんは

『わかった』

としか言わなかったらしい。立場が逆なら私もそう言ったと思う。少し冷静になれていた。

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