Second memory 84

= second memory 84 =


振り返らずに固まっていたら、声の主が前に回ってきた。

『やっぱりそうだ。御無沙汰していますが覚えてますか?』

覚えている。名前は出てこないけど。Crazy nightのことを記事にしてくださった週刊誌の記者の人だ。とりあえず

「こんにちは」

と言って頭を下げた。ゴリ、早く戻って。

『感じが変わっているので迷いましたよ。』

素敵な記事にしてくれた人だ。私のこともよく言ってくださった。

でもなぜここで会うの。すぐに気づくの。変装してるのに。

『これは奇遇ですね。高木さん。』

ゴリの声。助かった。そう高木さん!

『藪さん。こんにちは。』

私の方をもう一度チラッと見て、近づいて来たゴリの方を向いた。

『どなたかのお見舞いですか?』

ゴリにそう聞いた高木さんの声は記者の声だった。

『はい、瀧元がらみです。』

ゴリははっきりと言う。いいの?

『神村さんですか?カメラマンの。』

口から心臓が出るってこんな感じのことだろう。

『よくご存知で。』

ゴリは口元だけ笑った。

『大下さんもですか?』

『いえ。私の仕事がらみなので。付き合わせてました。これから二人で予定がありますので。』

ゴリはすかさずって感じに答えると私の肩を抱く。

『そういうことですか。随分感じが変わられたので。』

高木さんはにやりとした。

『まっ、あの時はまだ学生でしたし、瀧元の知人のお嬢さんですからね。シークレットでしたので。』

ゴリは笑って少し頭を下げる。

『大下さんはあれから何か創られましたか?』

高木さんが私を見た。楽しみだって言ってくれたっけ。少し頷いて

「はい」

と答えた。

『ほう、どんな?』

『でももう辞めさせました。私、実は古いタイプですので。妻には家にいてほしいんです。』

高木さんの質問に間髪を入れずにゴリが言った。

そして私を抱きよせた。妻?

『それはおめでとうございます。でもちょっと残念ですね。』

高木さんの言葉が終わると同時にゴリが言った。

『この後、予定がありますので。そろそろ失礼します。』

きっぱりとした声。でも高木さんは軽く頭を下げたゴリに言った。

『神村さんの件で、お話をお聞きしてもいいですか?またご連絡しますので。』

神村さんの件で・・この人はそのためにここにいたの?今からSHINのところに行くつもりなの?

『どうぞ。彼は被害者ですから。事務所の方にご連絡を。』

ゴリは今度は頭を下げずに言うと、私の肩をまた抱き寄せて言った。

『おまたせ。行こう』

私は高木さんに少しだけ会釈をして、ゴリに肩を抱かれたまま二人で出口に向かう。

『堂々としろ。振り返るな。俺の腰に手を回せ。』

ゴリが耳元に口を寄せて言った。後ろから見たら頭にkissしたみたいに見えると思う。

あの日と逆だ。私たちの背中を高木さんが見ている。

病院を出てもそのまま歩いた。その方がいい気がした。なるべく堂々と、頑張って。

ゴリは黙っていた。そして

『食事しよう。』

と言ってJRの駅に向かう。そのまま神戸へ。電車の中でもゴリはずっと私の肩を抱いていた。

オーナーのレストランで食事をした。心痛くなる余裕もなかった。

『絶対に一人で見舞いに行くなよ。万が一何か聞かれることがあっても、誰も、何も知らないで。』

電車の中でゴリに言われた時も、事態がよくわかっていなかった。


食事中もゴリは何も言わなかった。何か話しかけられる空気でもなかった。

本当は食べたくない。でも一生懸命食べた。

デザートの時にゴリがやっと口を開いた。

『cherry・・・台湾に行け。山根さんは今回のことをすべて知っている。あの人もこちらがわの人間になってくださってる。』

こちらがわの人間?

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