Second memory 40

= second memory 40 =


小さな物音で目が醒めた。さっきより体が動く感じがする。手も首も動いた。枕元に何かある。メモ?右手には相変わらず点滴。左手でメモをとった。わずかな月明かりで読む。

『明日、来ます』お母さんの字。帰ったんだ。きっとここ完全看護。

お母さんがいた椅子の方を見る。

誰かいる?SHIN?酸素マスクをはずした。人影が動いた。

『起こしちゃった?』

ゴリ。

「なんで?」

声が出た。何時なんだろう。

『ここの院長、うちの客。佐々田さんに連絡もらったのよ。』

藪さんのゴリだね。暗くて見えないけど、声のトーンでわかるよ。

「SHINは?」

ゴリは私のPCを持ってきてくれていた。SHINの部屋に置いてきてたから。点滴をしている方に起動させて置いてくれた。

横を向いて夕べ途中までしか読めなかったメールを読む。

子供たちと笑っている髭をはやしたSHINの写真。知らない人みたいだ。

メールを読み終わる。新しいのは来ていない。PCの画面を見つめたまま言った。

「ゴリ・・嘘だったんだ。見ちゃったんだ、写真。」

『・・アフリカの?』

「どこかは知らない。」

ゴリはちょっとため息をついた。

『今回は本当に危ないとこには行ってないと思うけど。出発前に死にたくないって言ってたから。初めてそう思ってるって。信じてやりましょうよ。ちゃんと帰ってくること。ちゃんと自分の命、大切にしてること。』

命。私が大切にしなかった命。ゴリにも言えない。

『今回、あいつらが残ることを認めるスポンサーの条件は必ず連絡してくること、連絡がとれる状態であることだから。通信係だったやつが怪我をして連絡できなかったらしいし。そいつ病院に連れて行ったりでバタバタしてたみたいだから。』

Mark?怪我ってなんで?

『銃弾で?』

ゴリはまたため息をついた。

「cherry、いろいろ考えないで。まずは体を治しなさい。SHINが帰ってきた時には元気であの部屋にいれるように。」

いつ?いつまでに元気になればいいんだろう。

元気になんてなれない。

ひどいことばかりしていた。赤ちゃんいるのに走ってた。ご飯食べなかった。寝なかった。残業ばっかりしてた。珈琲ブラックで飲んだ。気づいてあげなかった。また涙が出てくる。

『まだメールつながるんじゃない?SHINに報告したら今の状態。』

できないよ。したくないよ。なんて言えばいいかわかんないよ、ごめんなさいしか。

ゴリを見つめてただ泣いていた。ゴリが髪を撫でてくれる。

『心配かけていいじゃない?』

そうじゃないんだ。ゆるゆると首を降る。

ゴリが私の額にかかった髪をよけてくれながら言った。

『がんばりすぎ。』

そして、髪をよけた額にキスをした。


次の日、来てくれたお母さんにSHINのことを話した。報道カメラマンで今アフガニスタンに行ってるから、連絡ができないこと。

だからそれがわかってたから、赤ちゃんが欲しいと思ったこと。願ったこと。

お母さんは驚いていた。とてもとても。

『孝も、あなたも、なんでそんなかわった職業の人・・』

ほんとだね。ごめんね。荷物持たせて。

今回のこともお父さんやおばあちゃんに責められてるよね。一人暮らしのせいにされて。

違うからね。きっと家にいてもこうなってる。

『とにかく、今は自分の体を治して。せめて考える力を取り戻して。彼のことは心配だろうけど、心配してもどうすることもできないんだから。点滴してたらなんにもできないでしょ?』

そうだよね。点滴してたら車の運転もできない。迎えにいけない。

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