Second memory 39
= second memory 39 =
気がついたら、お母さんがいた。
左手を握ってくれていた。薄く目を開けた私に気づいて、
『大丈夫?』
と言ったあとに、ナースコールを押して私が気づいたことを告げる。右手には点滴の針があるみたい。酸素マスクつけられてるから話せないのか、体が話せないのかわからない。
あの時、体の奥の方から何かが上がってきたのはわかった。でも痛みの方が強くて、どうなったのかわからない。
看護師さんが来て血圧を計ったり、熱を計ったりしている。部屋を出ていく彼女に頭を下げて、お母さんが私の方を向いた。左手を両手で包むみたいに握ってくれる。
『突発性の胃潰瘍だって。血を吐いたのよ。痛みはどう?』
今は痛いのかどうかわからない。なんとなく全身がだるい。手も首も動かせない。
『手術はしなくても大丈夫らしいけど、このまま2週間は入院だって。とにかくまず体を休めなさい。』
2週間?そんなのいやだよ。
SHINは?テロのことはどうなってるの?仕事もある。でも声は出せない。酸素マスクのせい?
『部長さんから連絡いただいたのよ。駅員さんが名刺を見て会社に連絡されたみたい。うちは誰もいなかったから。ごめんね。部長さんにもお会いしたわ。すごく謝ってくださってた。自分のせいだって。頑張ってたのね。ほんとに頑張ってたのね。気がついてあげれなくてごめんね。こんなに疲れてたこと。いろんなこと。』
お母さんはちょっと涙ぐんでいる。
違うよ。佐々田部長のせいじゃないし、お母さんのせいじゃない。
私が上手にコントロールできなかったから。
それに仕事だけじゃない。
SHINのことで寝なかったり、食べなかったりしてた。それも自分のせいなんだ。
上手に働けない。上手に立てない。上手に待てない。そんな自分が悪い。
『さっきまでお父さんと孝もいたのよ。でも帰ってもらったの。朋、誰にも、お父さんや孝にも言ってないけど、もうひとつあなたに伝えなくちゃいけないことがある。・・赤ちゃんは今回はあきらめなきゃいけない。』
お母さんは、そう言うとまた左手を強く握った。
赤ちゃん?
何も言えないけど、私の目を見てお母さんはわかったのだろう。
『気づいてなかったの?』
気づけてない。赤ちゃん・・あの日だ、あの日授かってたんだ。私の祈りが届いてたんだ。だのに私は気づきもしなかった!自分で望んだくせに。気づいてさえもあげなかった!
涙が溢れてくる。声は出ない。酸素マスクのせいじゃないんだ。
ごめんなさい。SHINの赤ちゃんごめんなさい。あなたを守るどころか気づいてもあげずにいた。ごめんなさい。SHIN、ごめんなさい。あなたから預かった命を守れなかった。ごめんなさい。声は出ないけど涙は止まらない。ごめんなさい。
お母さんはまた強く私の手を握ってくれた。
『相手の人も知らないわね。でもちゃんと話さなくちゃいけないでしょ。これからのことも。今のあなたの状態のことも。私が連絡していい?』
連絡・・どうやって?どこに?
声は出ない。だからお母さんに伝えられない。
でも声が出たとしても伝えられない。
連絡とれないの。どこにいるのかもわからないの。今、生きているかも私にはわからないの。涙だけが溢れ続ける。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
涙は止まらないのにまた意識がなくなっていく。点滴に何か入っているのかもしれない。
ごめんなさいSHINの赤ちゃん。
ごめんなさいSHIN。ごめんなさい。
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