Second memory 38

= second memory 38 =


『あいつらのチームは戻ることになったのよ。』

カバに支えられている私にゴリが言った。

『今はタジキスタンにいるけど、もう一度アフガンに戻ることになったらしい。』

「なんで!」

叫んでいた。私、こんなに大きな声が出せるんだと思うくらいの声で。

『昨日のテロで世界がなにか動くと思ったからでしょ。』

危険な方にでしょ?それくらい私にもわかる。

「危険地帯なのに。なんでそこに戻るの!?」

おかしいよね。

ゴリは小さくため息をついて言った。

『そういう仕事を選んでるってことよ。仕事じゃなくてもそういう志でいるってことよ。入れなくなる可能性があるから、今のうちに戻るって決めたんでしょ。』

なんで?

「帰ってくるって言った。2カ月で帰ってくるって。」

『誰もあんなこと予想できないから。』

カバが小さく言った。私の肩を抱く腕に少し力をこめて。

おかしいよね。危険だから入れなくなるんでしょ?なんでそこに戻るの?おかしいよね。

どうぞ関係ありませんように。今回の事件にアフガニスタンが関係ありませんように。

『cherry、何日もちゃんと寝てないんじゃないの?とにかくベッドに横になりなさい。』

カバに言われて、支えられてベッドに横になった。

SHINのために洗ったシーツから少しお日様の匂いがする。全身に小さな震えを感じる。寒い。

わからない。なぜまた危険なところに行くのか。本当に大丈夫なのか。わからない。

横になった私の背中をカバがずっとさすってくれている。そのリズムで眠くなってくる。

そのまま眠った。眠りたくなんかないのに。


目が覚めるとカバがテーブルに突っ伏して眠っていた。起きてカバの背中からタオルケットをかけた。服のままだったから、パジャマに着替えた。コンタクトをはずして顔を洗う。唇の色がなかった。

部屋に戻って、暗い中でパソコンをつけてさっきSHINから届いたメールをひとつひとつ読む。

『写真ありがとう!xxx』

っていうのが最初のメールの始まりだった。そのメールに添付されている写真に白人の男性が写っていた。その人のせいでSHINの顔が半分になってる。邪魔。

Markというその人は、私が送った写真を見て私のファンになってくれたらしい。

『もう絶対彼にcherry の写真は見せない!』

って書いてあった。近況報告といくつかの写真が続く。

何通目かのメールに添付されている写真に、さっきの白人の男性が写っているのがあった。

担架で運ばれてる?穏やかな写真たちの中でそれだけが異様だった。

間違えて入った?その写真を見てまた不安になる。その写真についてなんの説明もないから余計に。

SHINのPCに何かが届いているかもしれない。そう思ってSHINのPCの電源を入れようと、抜いていたコンセントをとったとき、パソコンデスクの壁際の足に何かが貼ってあるのに触れた。USB ?隠してあったんだよね。なんで?誰から隠すの?私?見ちゃいけないの?でも見つけた。

テープで貼ってあるUSBを外してSHINのパソコンのコンセントを繋ぐ。起動させてさっきのUSBをさした。画面を開く。

そこには何枚もの兵士の写真があった。子供たちと穏やかに笑ってる写真もあれば、銃を手に積まれた土豪にもたれている写真もある。銃を構えている写真も。頭に血にそまった布を巻いて運ばれている写真も。

吐き気が襲ってくる。嘘つき。

戦闘の場所に行ってるじゃない。嘘つき。

すぐにトイレで吐いた。吐くたびに胃が痛くなる。

何度も吐きながら泣いた。もう胃液しか出ないけど吐き続けた。嘘つき。

そのまま、カバに見つけてもらうまでトイレの中で、意識を無くしていた。


その日は、カバに言われて病院に行くために会社を休んだ。

子供の頃からかかっている西宮の病院に行くことにする。カバに見送られてSHINの部屋を出る。

車で送るというカバの申し出を断った。病院は駅のそばだから電車の方が早い。さっさと診察してもらって、さっさと帰ってきたかった。情勢の変化を知りたい。

でも、カバの親切を素直に受けるべきだったのかもしれない。

ホームで電車を待っていたときに、経験したことがない痛みが胸のあたりから下半身に走った。そしてそれは全身に広がった。

私は生まれて初めて吐血して意識を失い、駅から救急車で行ったことがない病院に運ばれることになる。

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