Second memory 37

= second memory 37 =


結局、一睡もしていない。ずっと小さなTVの画面を見ていた。

同じ映像が繰り返し流されながら、映画のような現実を伝える。何が起こっているのかわからない。アナウンサーの説明では私の知りたいことは何ひとつわからない。

テロだということだけわかったらしい。

誰が?なんのために?

どうぞ無関係ですように。たくさんの人が被害にあっているのに、命を無くしているのに、私はそんなことしか考えられない。小さい。


翌日、会社ではオフィス中のTVがつけられていた。みんなどこかのTVの前でNEWSを見ている。私以外は。

私はいつもの自分の席でPCに向かっていた。

一番近い席から聞こえるTVの音声にだけ集中して、機械のようにアンケートの集計をしながら。

同期のお姉さんが声をかけてくれた。

『TV見ないの?朋ちゃんは関心ない?』

がんばって笑って

「怖いですから。」

と答えた。画面に写る映画みたいなシーンは夕べ狂うほど見ました。おそらく、このオフィスにいる人の中で、私がこの事件に一番関心があります。だから声を出さないで。音声が聞こえなくなる。

結局、会社にいる間にわかったことは、同時多発テロだということ。

ハイジャックされた旅客機が、ワールド・トレード・センターに激突したこと。ペンタゴンにも。そしてアメリカが非常事態宣言を出したこと。犯人がわかったけれど、彼らの背景はまだわかっていないこと。テロの犯行声明は出されていないこと。

私は就業中に二度吐いた。


定時で終わって〈SHELLEY 〉に向かう。

何が起こっているのか、アフガンは関係ないのか、それをゴリに聞きたかった。

SHINは今どこにいるのか。大丈夫なのか。今回のことに巻き込まれるなんてことはないのか。小さい。でも私はそんなに立派じゃない。

SHINみたいに強くないし、人間できてない。

体がだるくて走れない。でもなんとか〈SHELLEY〉にたどり着いた。

ドアに紙が貼ってある。

『本日の営業はお休みいたします』

ドアに鍵がかかっている。私が〈SHELLEY〉に来るようになって、初めて重たいドアに鍵がかかっている。

そのまま〈Noon〉に。

〈Noon〉にも同じ貼り紙。もちろん鍵がかかっている。

誰か教えて。誰か助けて!

〈Noon〉の階段に座り込んだまま動けなかった。


誰も来ない。ここにいてもしかたがない。

ゴリからのメールも来ていない。

とにかく壁を支えに立ちあがった。SHINの部屋に行こう。

フラフラと歩きながら、通りかかったタクシーに乗ってSHINの部屋に向かった。

SHINの部屋でTVを見ていた。その後のことが知りたい。

聞いたことがないテロ組織の名前をコメンテーターが言ってる。テロ組織の名前なんて知らない。ひとつも知らない。どこの国の組織なのかもわからない。

左手に携帯を握りしめている。

床に座り込んで、パソコンを開けて、TVの画面にほとんどくっついて見ていたとき携帯が鳴った。ゴリから。

『cherry、どこにいるの?』

「ゴリ!何が起こってるの?SHINは?」

『落ち着いて。どこにいるの?行くから。』

「SHINの部屋。」

『わかった。』

電話は切れた。SHINのことなにも教えてくれてない。


30分たたずにカバが来た。

私の様子を見て、まず抱きしめてくれた。

カバもSHINのことは何も知らなかった。

『大丈夫だって信じましょう。きっともう安全な場所に移動してるって。』

してないよ。メールがない。

少ししたらゴリが来た。

私とカバの様子を見て、大きく息をついてから言った。

『確認とれたから。大丈夫!』

全身の力が抜けた。

倒れるところをカバが支えてくれる。

TVの画面では悲劇的な現実の映像が、繰り返し流されている。

その時、PC にメール。SHINから!

この間みたいにxxx が並んだラブレターみたいなメールがいっぱい着く。ちゃんと読まずに全部を開いた。

一番新しいメール、

『cherryごめん、少し帰るのが遅くなる。』

「なんで!?」

PCを見つめて叫んだ私に、カバが驚いて、ゴリがため息をついた。

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