Second memory 31

= second memory 31 =


SHINから私へのメールは、アフガニスタンから一度きただけで途絶えている。ただ個人的にではなく、チームからの連絡は本部に入り、後見のオーナーには届いているので、無事は確認できている。

毎日、くまのSHINのRudrakshaにお祈りをして出かけている。ゴリのとダブルパワーでガネーシャが頑張ってくれてるのかもしれない。

仕事は予想どうり、怖いくらいの忙しさだった。

どこだって、夏休みに集客しようとするんだから当たり前だ。遊園地のイベントから、ホテルのショー、観光地のイベントまであらゆるスタートがカウントダウンに入っている。

スタートしたらしたで、私たちは現地に応援に行くことになる。毎日、残業が続くけど1日があっという間に過ぎる。このままで行くと、2ヶ月はすぐに経つだろう。

帰って服も着替えずにベッドで寝てしまうことも、めずらしくなかった。体はちょっと疲れているかもしれない。


お休みの土日に久しぶりに大下家に帰った。

一人暮らしを初めてから数回目。

お母さんとは何回か電話で話してたけど、お父さんと、おばあちゃんは声を聞くのも久しぶりだった。

土曜にSHINの部屋に行ったあと〈SHELLEY〉によってから向かったら、夕食の時間になっていた。珍しく玄関にお兄ちゃんの靴がある。私が来るから来てくれたのかもしれない。

夕食は、ほんとに久しぶりに全員が揃った。おばあちゃんがとにかく嬉しそうだった。お父さんやお兄ちゃんと仕事の話をした。食事をしながら仕事の話ができるなんて、大人になった感じがする。ちょっと不思議な感じ。


食事が終わってお茶を飲んでいた時に、お兄ちゃんがちょっとまじめな顔をして話しだした。

『みんな揃ってるし、ちょっと言うときたいことがあるねん。』

なに?あらたまって。

お母さんだけが洗い物をしてシンクに向かっている。こちらに来ないところをみると話の内容を知っているのかな?

お兄ちゃんは私たち3人の顔を見渡して、小さく息を吐いてから言った。

『結婚したい人がいる。』

びっくり。彼女がいるのも知らなかった。お母さんは黙って洗い物をしてる。知ってたんだ。

「おめでとう!」

誰よりも先に言った。お兄ちゃんにそんな相手がいて、結婚まで考えてるって嬉しい。どんな人なんだろ?お兄ちゃんは、私の方を向いて微笑んで小さく『ありがとう』と言ったあと、また固い顔に戻った。

『養子に入ることになる。』

お父さんと、おばあちゃんの表情が変わる。さっきまで笑顔だったのに。お母さんは知ってたんだ。

『孝ちゃん、何言うてるの?あんた長男やんか!』

おばあちゃんの声が震えてる。お父さんも

『ありえん。』

と一言言って、席を立って行った。

お兄ちゃんはおばあちゃんに

『ごめんな。』

と謝ったあと、お父さんの背中に向かって、

『もう決めたから。』

と言った。お父さんは何も言わずに部屋に入って行った。お母さんは洗い物をしながら、ため息をついていた。お母さんを見ていて思う。お母さんってポジションはかなり大変だろうな。


お風呂から上がって自分の部屋に戻るとお兄ちゃんが缶ビールを二本持って来た。話したかったよ。

『朋は仕事も順調そうやし、彼氏とも順調そうやな。もう中学生には見えんな。大事にしてもろてるやろな?』

ビールをわたされながら、いきなり言われて頷くしかなかった。SHINのことを話そうと思ってたけど、まずはお兄ちゃんの話を聞かせてよ。

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