Second memory 14

= second memory 14 =


帰り道では、SHINの腕につかまっていた。

右手を繋ぎながら、左手でもしっかりと彼の腕を抱きしめるように。きっとSHINは歩きにくい。でも何も言わなかった。

『孝さんに会うの延期になっちゃうね。ごめんね。』

SHINがようやく発した言葉が、そんなことなのも不安になる。そんなこと話すのもっと後回しでいいよね?

私はもっと社会情勢のこととか勉強しておくべきだったんだ。自分の大切な人が渦中に行くことは最初からわかっていたのに。

勝手に彼はもう行かないって自分の願望で考えて、蓋をしていた。

どうしてだろう。楽しい時は、それが壊れた時のことをいつも事前に考えることができていたのに。

どうしても絶対に壊れてほしくない現状だったからかな。頭の中に少しだけあった、起こると一番辛いだろうことに蓋をして逃げていたのかもしれない。なんて弱い。時はいつも、今も流れているのに。

SHINの言葉にあやふやな返事をしてしまったんだろう。彼はお兄ちゃんのことにはもう触れずに

『・・心配ないから。大丈夫だから。』

と言った。

大丈夫って言葉の範囲が、私とSHINではきっと次元が違うよね?

でも私は彼の言葉を信じるしかない。次元が違ったとしても信じるしかない。


今朝からずっと、ふわふわとしたスポンジの上を歩いている感じがする。

なんだろう?この感覚は。

自分の中にあるものも、自分が感じてるものもよくわからないまま、ただ彼にしがみつく自分の腕に、力が入っていくことはわかった。

黙ってふわふわ歩きながら思う。このふわふわ感は気持ちいいものではない。自分の足がちゃんと地面についているのかどうかがわからないんだ。自分の気持ちをどこにどう着地させればいいのかがわからないんだ。

最上級の不安?

今よりもっと辛くなるかもしれないし、怖くなるかもしれない。

でも、どっちにしても時は流れる。

SHINの出発までの時間は、どんどん少なくなっている。

砂時計の砂が落ちるように。

しっかりとひとつ深呼吸をして声にする。

「SHIN、どこに行くのか教えてほしい。今回の予定をちゃんと教えてほしい。怖くて倒れちゃうかもしれないけど、わからないことの方が恐いのかもしれない。どこであろうと、どんなことをするのであろうと、私はあなたを信じているし、帰ってくるっていう言葉を信じる。だから、私が戦わなければいけない不安のターゲットを絞らせて。」

SHINの表情が少し驚いている風に見える。

このままごまかせると思ってたわけじゃないよね?

私はもう子供じゃない。

私が不安にならないように、あなたが考えてくれてたことはわかってるよ。

でもね、これから2ヶ月、あなたは私を守れない。私もあなたを守れない。だからちゃんと知っておきたい。

私たちは部屋に入らずに公園のベンチに座った。

SHINは私の方をしっかり見て教えてくれた。

『アフガニスタンに行ってくるよ。』

目眩がした。渡航禁止だよね?

『今、政権はタリバンが持っているけど、僕が行く村は、前回お世話になった人たちが暮らす村はそっちじゃない。』

つまり反政府?

『僕たちはチームで動くから、いろいろ予定が決まらなかったり変わったりする。僕が属している組織からの連絡はすべてオーナーに入るから。オーナーにはすぐにcherryに伝わるように頼んであるからね。多分、ゴリを通して。

ネットが繋がる時は必ずcherryにメールをする。cherryがメールくれてたら必ずそこで読む。必ず帰ってくる。これほど強く帰ってきたいと思ったのは初めてだから。必ず元気に帰ってくる。国名だけで必要以上に心配させるかと思って言えなかったんだ。ごめんね。余計に不安にさせたみたいだね。』

SHIN、一般人にとってその国名のインパクトはすごいんだよ。必要以下なんてないよ。針がぶちきれるMAXのレベルなんだよ。

世界遺産を爆破している人たちが政権を持っている国。自分たちと違う思想の人間は、一切認めない人たちが政権を握っている国。その国の反政府サイド。

多分、ベンチから立てない。

踏みしめているのかどうかわからなかったふわふわ感は消えた。足の裏にちゃんと地面は感じているけど、立ち上がれる気がしない。聞かなければよかったのかな。

人は自分の中で増幅される不安と、現実の不安と、どちらの方が耐えられないものなんだろう。

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