Second memory 15
= second memory 15 =
部屋に帰るとSHINはすぐに本棚から一冊の絵本を出してくれた。
『アフガニスタンはとても美しい国だったんだよ。牧歌的で。内戦でそれがめちゃくちゃになった。美しい領土を愛していた現地の友人たちも、それを守るために何人か犠牲になっているんだ。彼らの残した家族や友人たちのところに行かなければいけない。その真実と現状を伝えないと。もういくつも彼らの誇りだった世界遺産が犠牲になってるしね。』
SHINの顔がいつもより厳しい気がする。今までに見たことがない表情。
私は椅子に座ってSHINが出してくれた絵本を見た。正直なところあまり何も入ってこない。ただ1ページ1ページに描かれた穏やかな自然に溢れる風景に、少しだけほんの少しだけ癒される気がする。
一番最後の頁をめくる前に、SHINは絵本をとって目の前にカフェオレを置いてくれた。
『顔色悪いのは僕のせいだけど、ミルク多めにしたから。』
あなたの行き先のせいだね。
「この絵本の村に行くの?」
私の質問にSHINは首を振った。
『その村はもうないよ。でも同じように美しかった村に滞在すると思う。』
美しかった・・・過去形なんだね。
『cherry、前にも言ったように僕たちは前線には行かない。戦闘を取材するグループではないから。だから今、君が抱いているイメージよりはずっと安全だから。』
SHINは隣に座って珈琲を飲みながら、私の手を握って微笑んだ。
日曜日だけどSHINは出かけた。
私は彼を送り出したあと、何をすればいいのかわからなかった。とりあえず自分の部屋に帰る。帰ってもきっとわからないけど。
やっぱり部屋に帰っても、何をすればいいのかわからない。何をする気にもならない。
PC を開いてみるけど、企画なんか出てくるはずもない。頭の中に靄がかかった状態のままベランダに出る。
この間、SHINと見た景色と違う。高さが違う。あの日の景色が見たい。でもこの部屋には椅子がない。踏み台にするものは何もない。高くなれるもの・・本。私は部屋の角に積んでいた本をベランダに積んだ。SHINの高さになれるように。
20センチくらいの高さまで本を積んだ時に、ふと我にかえった。私、何をしてるんだろう?
そう思ったときに涙が出てきた。ベランダに積んだ本の横に座って泣いた。
SHINの出発の日が決まったと聞かされた昨日の朝から、初めて泣いた。
やっぱり一人ではいられない。そこに彼らがいるかどうかはわからないけど。日曜日だからツーちゃんはデートだろうし、ゴリやカバだってお休みだから。
でも私が今、行ける場所は、行きたい場所はwonderlandしかないんだよ。
恐る恐る重たいドアを押してみる。鍵はかかっていない。
二人はいつものように、あたりまえみたいに〈SHELLEY〉にいてくれる。私を待っていてくれたみたいに。
私がこんな状態でドアを開けることを予測してたみたいに。さっき体中の水分がなくなったと思うくらい泣いたのに、また涙が出てきた。
ゴリ、カバ、助けて。
店に入ると、まっすぐにいつものソファに座っているゴリのところに行った。私の姿を見て立ち上がってくれたゴリの胸に飛び込んだ。ゴリは何も言わずにそのまま抱きしめてくれる。
私はゴリの胸を握りしめた拳で叩きながら、もう一度泣いた。
私えらいんだ。SHINの前では泣いてないんだ。ちゃんと我慢したんだ。そんなことを何度も口にしながら。
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