First memory 89
= memory 89 =
カバはちょっとため息をついて言った。
『ねぇcherry 。前にも言ったけど、SHINは私たちにとって家族みたいなものなの。SHINの昔の話は知ってるわよね?』
子供の頃の話?
『私も少し話したけど、子供の頃のこと。』
頷いて答えた。
「SHINから聞いた。」
カバは頷いた。
『ひとつの説ではあるけど、子供って3歳までにいろんなことを吸収するって言われてるのね。性格とかもそこで形成されるって。ご両親や周りにいる大人たちから、知らず知らず教わっているという説に私も賛成なの。SHINはああいう状態で10歳の頃にママやオーナーと知り合ってるんだけど、その前のことは誰も知らないのね。SHIN自身もそんなこと覚えてないし。お母さんは彼が中学卒業の頃に亡くなってるし。
SHINの置かれていた状況は(ネグレクト)って言われるものだったんだけど、この(ネグレクト)を受けた子供にはPTSDが残る可能性があると言われてるの。PTSDってわかる?』
何となくだけど。頷いた。
『SHINが誰にも優しくて、相手の話を途中で切ることができなかったり、頼ってくるものを拒むことができないのは、私はこの(ネグレクト)のPTSDからくるひとつの形ではないかと思ってるの。でもそれは悪いことではないでしょ?(ネグレクト)のPTSDでは暴力的な方向に進んでしまうこともあるから。』
ちょっと難しい。でも、SHINは暴力的なことなんかしない。
カバは珈琲を飲んでもう一回深く息をついた。そして話す。
『SHINは今まで独占欲っていうのを表に出したことがないらしいのね。私もそんなに昔のことは知らないけど、私が出会ってからもそういうの見たことは一度もない。物に対しても、人に対しても。でも私はあなたに対して、SHINが初めてそういう感情を持っている気がする。あの子を見てて。』
独占欲?それは私が持っているんじゃないのかな?SHINに対して。だからジェラシーを感じた。
だってSHINにはファンがいっぱいいるし、黄色い声でSHINの名前を呼ぶ綺麗なお姉さんもいるし、ステージのあと上目遣いにプレゼントを渡すパステルカラーの服が似合う女の子もいるし、沙織さんもいる。
でも、私には誰もいないよ。SHINがジェラシーを感じる相手は。SHINしか知らないし、SHINしか見えてないし。
『だから、とてもプライベートなことで恥ずかしいのはわかるし、言いたくないのもわかるし、SHINを庇いたいのもわかるけど、今回は正直に状況を教えてくれない?SHINがあなたの手首をそこまで強く握ったときのこと。』
なんとなく、カバには話していい気がする。
二人のことだし、とてもプライベートなことだし、恥ずかしい話だけど。カバだけには話した方がいいような気がする。SHINのためにも。
私はカバに、あの夜のことを話した。
私が沙織さんに対してジェラシーを感じたこと、SHINが彼女のテーブルに行くのを見たくなかったこと、SHINを試したこと。SHINが手首を握って離してくれなかったこと。謝ってくれたこと。
カバは黙って聞いていた。
「SHINは怒ってたと思う。私が試したこと、わかったんだと思う。だから怒ってたんだよ。私が悪かったんだ。沙織さんのことだって、カバが言ったように〈crazy night〉の日もなんにもなかったんだよ。私の手を放したのだって、私が言い出したことだもん。お互いファンの前では秘密にしよって。だから、この痣はSHINの子供の頃のこととは関係ないよ、きっと。ちょっと怒ってただけだよ。」
『・・ほんとにそれだけ?』
私が話し終わるとカバが言った。
他になにかあったっけ?
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