First memory 88

= memory 88 =


ドキッとした。ゴリには知られちゃダメな気がしたから、隠れる上着を選んだのに。なぜそう思ったかは自分でもわからないけど。

「なんでもないよ。色が白いから大袈裟に跡がつくんだ。痛くないし。」

一生懸命、ケーキを食べてる風にゴリを見ずに答えた。

「フ~ン。・・興奮したのかしらね。そう言えばあんた最近、色気出てきたもんね。最初に会った頃に比べて。」

ほんと?!

『ほーんのちょっとよ。SHINのせいかしらね。ステージのせいもあるわよね~。』

「カバのアボカドミルクも?」

ゴリはニヤって笑ったけど、そのあと手首のことは何も言わなかった。


『私は行くとこあるから、あんたSHELLEYに寄ってカバに報告しといて今日のこと。カバも心配してたから。』

ホテルを出るとき、ゴリはそう言ってカバへのお土産を渡してくれた。

『店まで歩いたらまたお腹減って、あんたも一緒に食べれるわよ。』

って。ごちそうさまでした。


〈SHELLEY〉に行くともちろん鍵は開いていた。カバは一人だった。ゴリからのお土産を渡す。

受け取ったカバはすぐに珈琲を入れてくれて、一緒に食べる準備をしてくれた。ゴリのお土産はあのホテルのバームクーヘン。

『cherry 、良かったわね!おめでと!』

珈琲とバームクーヘンの準備をしてくれたカバが、ちょっと大きい声で言ってくれた。

でも私、なんにも言ってないよ。もしやカバにもお見通し?

『ゴリと約束してたのよ。ゴリが何をしようとしているのかはよくわからなかったけど、cherryに関わることだとは聞いてたから。cherryにとって良い結果なら丸いもの、って。』

丸いもの、バームクーヘン。

『もし、良い結果じゃなかったら、話しづらいでしょ?私が期待して聞いたら。』

ゴリ、カバ・・なんか・すごい。

怖いくらい、優しい。


私はカバに、今日の2時間の話をした。

話している間にすごく興奮してきた。

やっと嬉しくて興奮してきた。

カバはニコニコしながら話を聞いてくれる。だからもっと嬉しくなる。話したくなる。

話し終わるとカバはいつもみたいに頭を撫でてくれた。

『さすがゴリね。cherryもよく頑張ったね。卒業制作からずうっと頑張ったわよね。初めてで大変だっただろうし、ゴリは厳しいから辛いこともあったでしょ?でも最後まで頑張ったから、ちゃんとご褒美ね!』

嬉しい。カバはちゃんとわかってくれてたんだ。何回もゴリの言ってることがわかんなくて、やり直しばっかりさせられて泣いてたことも。ありがとう。


カバも私も、バームクーヘンには手をつけていなかった。まだいっぱいあるよね?

「カバ、ツーちゃんちは遠い?」

『すぐそこよ。どうしたの?』

「ツーちゃんも呼んで一緒に食べたいなって。」

SHINも。

カバはちょっと黙った。カバらしくない?

『今日はツーはデートかもよ。』

「じゃ、SHIN・・」

カバは厨房に行くと、ラップでくるんだバームクーヘンをふたつ持ってきた。

『はい、SHINにも報告に行くでしょ?一緒に食べなさいね。あなたのお祝いなんだし。でも、もう少し二人で話しましょ・・。手首をちゃんと見せて。』

カバも気づいたの?

しょうがないから、両手をカバに差しだした。カバは片手ずつ、私の上着の袖口をそっとめくって、赤い跡を確認していた。

『ほんとは痛かったでしょ?』

ほんとはって?

ブンブンと首を降って答えた。

「そんなことないよ。跡つきやすいって、カバも言ってたじゃない。」

嘘をついた。

カバに嘘をつくのは2回目だね。

最初は本屋で無視しようとした時。ごめんね。

でも、痛くなかったって思いたいんだもん。

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