First memory 83
= memory 83 =
『なるほどだいたいの企画主旨はわかりました。しかし、いい企画書ですね。学生さんが書いたとは思えない。』
高木さんはそう言って誉めてくれながら私を見たから
『・・何度も・藪さんに見ていただきました。』
とポケットのマイクをそっと握りしめて答えた。口の中、カラカラ。
『メインコンセプトは、やはり"性別を越えて"というところですか?』
ちょっと考えて答える。
「メインコンセプトは、とにかく、そこにいる人みんなで楽しもうということです。性別を越えるというより、関係なくというか・・そんなことは意識せずというか・・」
ちょっと言葉につまる。
『オカマクラブの15周年ですから。その時点で性別に拘ることがおかしいですからね。』
ゴリが助け舟を出してくれる。
『そうですね。卒業制作にこの企画を選んだってことは、オカマクラブであるこちらSHELLEY や、他の店に通っていられたのですか?』
通ってるけど、ショーを見たのは1回だよ。
ちょっと高木さんの質問の仕方、意地悪くない?
「瀧元オーナーのご兄弟でもあるSHELLEYのママさんが、私の二十歳のお祝いに招待してくださいました。オカマクラブのショーを見たのはその時が初めてです。本当に楽しくて。お客様の男性も女性も心から楽しんでいられるように感じました。その時の楽しさをもっとたくさんの人に共有してもらいたいと思ったことが、企画のきっかけで、メインコンセプトに繋がっています。」
意地悪に言われると燃えるのか?私。自分でも驚くくらいしっかりしゃべれたぞ。
高木さんはメモをとりながら、話を聞いている。
『あー、瀧元が大下さんの様子を知りたいと言ってましたので、これ録音させていただいています。大丈夫ですね?』
ゴリがポケットのボイスレコーダー(?)を指差した。
『・・もちろんです。問題ありません。』
高木さんはそれからは意地悪な言い方をしなくなった。
『しかし経費の計算までされたのですか?』
「そこは藪さんに、ご教授いただきました。」
すかさずゴリが言う。
『協力店への交渉も彼女が行いましたので、つめの甘いところもありますが、これまで企画会社にかかってきた予算が、今回はゼロですみましたからね。とにかく任せました。』
高木さんはそりゃそうですね。と言ってまた何か書いた。
『この3つ目の更衣室っていうのは、大下さんのアイデアですか?』
「はい。」
『私は費用面で反対したのですが、彼女は譲りませんでした。』
とゴリ。
『なぜ?』
「New genderの方が女性更衣室に入ることを嫌がる女性もいると思ったからです。そうなってどちらも嫌な思いをするのなら、あらかじめ準備しておけばいいと思いました。認める認めないを強要することはできませんし、性同一性障害で悩んでいる方々は実際にいますので。」
『なるほど。ニュージェンダーですか。』
高木さんは、では最後にと切り出した。
『今回のイベント企画を通じて、あなたが一番学ばれたことはなんですか?』
一番・・。
「・・イベントというものは、企画を創造するときは心から楽しんで、実際に作り上げる過程では、頭も体も動かして汗をかく、ということです。」
高木さんは、私の言葉をすべてメモったように見えた。終わりだね?ちょっと安心したら微笑めた気がする。
『今回は経費の具体的な数字などは出さないでください。申し訳ありませんが、この企画書をお預けすることはできませんので。念のためですが録音はされていませんね?条件だったと思いますが。』
黙って聞いていたゴリが言った。
『はい、文章量も少ないので。諸々、了解しました。では写真は何点かデータでお願いします。ゲラ校正は水曜日にお届けしますので、よろしくお願いします。掲載は次々号の予定です。』
『承知いたしました。では校正はそちらのアドレスに私宛にお願いします。』
二人が立ち上がったので、あわてて私も立ち上がる。
『では、藪さん、大下さんありがとうございました。しかし、若いっていうのはいいですね、真っ直ぐで。』
高木さんは、やっと本当に笑ってくれた気がする。
『彼女は特にそうかもしれません。』
ゴリもそう言って笑った。二人は握手をした。そして高木さんは私にも右手を差し出した。
CHERRYの笑顔で握手をした。
『あなたはこれからおもしろいものを創るでしょうね。』
高木さんは最後にそんなうれしい言葉と笑顔を残して、一礼をして帰って行った。
私たちは高木さんの背中が少し小さくなるまで、頭を下げて見送った。
ヒェ~と思いながら椅子に座ろうとしたら、ゴリがきちんと立ったまま、後ろのテーブルに言った。
『どうもお待たせをいたしました。』
そして軽く礼をする。
私もその場で再びのキオツケ。
まだ何かあるの!?
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