First memory 82
= memory 82 =
紀伊国屋の前はすごい人だった。さすが日曜日。
でも180㎝+ヒールの巨大なオカマさんを探すのは難しくないはず。今日はパンツ姿かもしれないなあ。
でもね、入口ふたつあるからね、どっちって言っておいてほしかったよ。人がいっぱいだからあっちまでは見えないし。
15分くらい前から、紀伊国屋のふたつの入口をうろうろしてるけどゴリはいない。
2時になっちゃったよ。遅れてるのかな。ゴリは携帯電話持ってるのかな?番号わかんないけど。
2時5分。いない。さっきから二つの入口、何往復しただろ。あっ、裏側かもしれない。
そう思って歩道の方に行きかけたとき、
『cherry !』
っていつもの声がした。ゴリ、遅刻だよ。
でも裏に行かなくてよかったと思って振りかえる。
・・・どちらさまでしょうか?
『あんた、何回、私の前通過してんのよ。』
っていじわるそうに笑ってる男性は、ゴリ?
髪黒いよね?後ろでひとつにくくってるし、お化粧してないし、スーツ?アルマーニ?ホンモノのゴリ?
「ゴ・・ゴリ?ど・どしたの?」
私、どんな顔してるんだろ。ゴリは私の質問には答えずに
『おもしろいもん、見せてもらったわぁ。でも時間だから行くわよ。』
って、私の頭を軽く小突いて歩きだした。
なんか歩きやすそうだよね、大股だよね、早いよね!私、ほぼ走ってるよね!
「ゴリ、待ってよ。早いよ。」
お気に入りの無駄なブーツだからついてけないよ。
『あー、ごめんごめん。』
ゴリはそういうと少し待ってくれた。
「どしたの?そのかっこ。」
私の質問にはやっぱり答えずに
『とりあえず、聞かれたことには正直に答えなさい。それから今日のあんたは大下朋だから、cherry は封印して。なにか困ったことがあれば、ツーみたいに首かしげて微笑みなさい。背筋伸ばして。それからこれ、度胸はCHERRYで。』
さっきより少しゆっくり歩いてくれながら、早口で言ったあと、なにかをくれた。
『ポケットの中で握りしめておきなさい。あー、私のことはゴリって呼ばないでね。』
くれたのは、ラムネの入ったマイクのオモチャ?お菓子売り場で売ってるヤツ。
なにが始まるの?どこに行くの?
到着したのは、ホテルのラウンジだった。
『背筋伸ばしなさい。そのままキープするのよ。』
って耳元で囁く。
やっぱり大股で歩くゴリに着いて行くと、一人の人が立ち上がった。
『どうも。今日は日曜なのにすいません。』
やっぱりスーツ姿のその人がゴリに頭を下げる。
『いえ、こちらこそ。』
そう言うと二人は名刺交換を始めた。
『週刊××の高木です。今日はお時間をいただきましてありがとうございます。』
『藪です。瀧元からお話は聞いています。先日のイベントを記事にしていただけるとか。ありがとうございます。』
藪? どっかで聞いた。
記事?イベント?もしや〈crazy night〉?
『日曜にお願いしたのは、あのイベントをプロデュースした本人が学生なもので。こちらが、企画からプロデュース、運営まで行った大下さんです。』
私? とりあえず、頭を下げた。
『学生さんがプロデュースですか?えーっと藪さんの彼女とか?』
『いえいえ、瀧元の知人のお嬢さんです。今回の企画のスタートは彼女の頭の中から始まりました。ところでこの企画趣意書でいくと、この(街の話題)の部分と。』
ゴリが出した企画趣意書にはラフレイアウトがある。2分の1ページの記事?
『学生ですので、大下さんの名前は出ないようにというのが瀧元の希望です。』
そして私の方を見て言う。
『大下さん、今回の企画のきっかけは卒業制作だったね?ちょっと流れを説明して差し上げてください。』
敬語?私に?
そしてまた高木さんに向き合う。
『念のために、大下さんから預かった企画書を持って来ています。とりあえず、目を通していただければ主旨はご理解いただけるかと。補足が必要なら、どうぞ彼女にご質問ください。』
ゴリはそう言うと
『大下さん、それで大丈夫ですね?』
って。高木さんはわかりましたと企画書を読み始めた。
目をパチパチしてる私に気づいて、ゴリがちょっと目で合図みたいにしてくる。
落ち着けって言ってるみたい。やっとちょっといつものゴリだった。
私はポケットの中のオモチャのマイクを握りしめた。
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