First memory 75
= memory 75 =
〈SHELLY〉のみんながお客さんを送り出している間、SHINと二人で厨房にいる。さっきから何も話してない。
私はボーっとしている。終わったんだ。私の頭の中から始まったことが。何事もなく無事に。思ったとおりに。
すごくうれしいのに、なんだろうこの脱力感は。
SHINにもいっぱい手伝ってもらったから、今、同じ感覚でいるのかな?厨房の丸椅子に座って目を閉じている。動いてるから寝てるんじゃないみたい。
なんでなんにも言ってくれないのかな?なんか怒ってる?
「・・SHIN?・・」
って声をかけてみた。ちょっとこっちを見る。
『うん?』
「疲れた?」
『そだね・・cherryは大丈夫?』
大丈夫?って言葉が聞きたかったんだ。
「うん。でも疲れた。」
『おつかれさん。頑張ったね。成功おめでとう。』
「ありがとう。」
でも、私だけじゃないじゃない、SHINも一緒に作ったのに。
「SHINもありがと。成功おめでと。」
SHINは少し笑った。
『僕は与えられた仕事をしただけだから。』
そんな風に思ってたの?
私は一緒に走ってくれてると思ってたのに。
「一緒に作ってくれたじゃない。」
なんか悲しくなる。
『ごめん・・そうだね、一緒に作ったんだよね。』
私の様子を見て隣に来てくれた。
でもなんか変だよ。
『今日は来てくれるんだよね?僕の部屋に。』
だって、もう終電ないじゃない。それに前から今日は行く約束になってたじゃない。なんでそんなこと聞くの?やっぱりちょっと変だよ。
なんか変なSHINにちょっと戸惑いながら思い出した。〈Noon〉の後片付けしてないし、衣装も着替えなきゃ。
田中さんが『行ってください!』って言ってくれたから、飛び出してきたけど。
「SHIN、着替えに帰らなきゃ。」
『あっ、そうだね。』
やっぱりなんか変だよね?
二人で厨房を出る。
最後のお客さんが出て行ったとこみたい。みんながホールに来て、それぞれに椅子に座っている。
カバに、着替えに行ってまた来ると伝えて二人で〈SHELLY〉を出た。
まだ9月だけど、もうちょっと寒い。SHINに借りた上着の前を合わせた。
『寒い?』
頷いた。でも肩を抱いてはくれない。
やっぱりなんか怒ってるよね?
先に歩くSHINについて行きながら、すごく悲しくなる。はっきり言ってほしいよ、なんかあるなら。
ちょっとゆっくり歩いてSHINとの距離があいた時、振り返った。
戻ってきて手を繋いでくれたけど、別になんにも言わない。二人で黙って手を繋いで歩いた。
そう言えば、ちょっと前もこんなことがあったなあって思い出しかけてたら〈Noon〉が見えた。階段の所に誰かいる?田中さん?
いや、女性だよね。SHINもその人影を見つけたみたい。
『・・沙織さん?』
SHINが女性に声をかけた。サオリさんって誰?
『SHIN!』
その人も私たちに気が付いたみたい。
SHINが私の手を放した。
手を放した。
私の手を放してその人のところに近づく。
『帰国してたの?今日来てくれてたの?』
知り合いなんだよね?名前知ってたしね。
彼女は頷いて言った。
『一昨日、帰ってきたの。』
そしてベネチアンマスクを見せる。
彼女に私は見えていないのか?
私は私を見ていない彼女にちょっと会釈してSHINに言った。
「・・SHINさん、私着替えてきます。」
『あっ、うん。』
SHINはそれだけ。
私はもう一度 “ サオリさん ” というらしい知らない女性に会釈して、〈Noon〉の中に入った。
涙出てきた。うれしい日なのに。
最高の日だったのに。
SHINは繋いでいた私の手を放した。
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