First memory 74

= memory 74 =


11:00、Noon終了。

最後のお客さんを見送って衣装のまま

SHINと〈SHELLY〉に走る。

ラストステージでは、衣装はいつもの衣装だったけど、全員がベネチアンマスクをつけていた。

このマスクをつけているだけで、違う世界の住人になっている気がする。

そのままで外に出るといつもの街が違って見えた。肩ひものドレスだけではちょっと寒かった。

気がついてSHINが上着をかけてくれる。

こういうのうれしい。

〈SHELLY〉はまだ最後の盛り上がりの中だった。ステージ中央ではツーちゃんが何か歌ってる。曲にあわせてみんなが踊ってる。

お客さんもスタッフも一緒に。

着ぐるみの人もいる。

〈Noon〉では見なかったから、ずっと〈SHELLY〉にいたのかな?

一番後ろからきょろきょろしてたら、

『CHERRYさん!』

って声をかけられた。デュエットした大学生だった。

「こちらにも来てくださったんですか?ありがとうございます。」

そう言ってお辞儀をした。SHINはそっと少し離れた。

『僕ら、オカマバーって初めてだったんです!興味あったけどなかなか。でも今回のイベント、チャンスだし。すっごい楽しいですね!もちろん〈Noon〉も最高ですよ。』

うれしい!聞きたかった言葉!直接聞かせてもらえるなんて!

もう一人がそっと聞いてきた。

『・・あのステージの彼女もオカマなんですか?』

「気持ちも、性格も完璧に女子ですよ。肉体はNew genderです。」

なんて答えていいのかわからなかったけどそう言った。

ニューハーフって言葉はきらいだ。NewをつけるならツーちゃんはNew gender。新しい性。もうひとつの性。更衣室の入り口にもその言葉を貼った。ツーちゃんはかっこいいって言ってくれたから。

彼らはわかったようなわからないような顔をしている。

責められないよ。私もそうだったもの、ツーちゃんに逢うまでは。

「楽しんでくださいね。またぜひ〈Noon〉にもお越しください。」

そう言って彼らのそばを離れた。ちょっと泣きそうな気持。

SHINを探す。でも人が多すぎる。

おまけにみんな仮想。

ベネチアンマスクの人もいっぱい。

『cherry』

後ろから声が聞こえた。肩の力が抜ける。

いつもの安心をくれる声。ゴリ・・・。

『どうだった?』「どうでした?」

同時に同じことを聞いた。

『大盛況よ!みんな楽しそうでしょ?』

「こっちもです!」

ステージでは演奏が終わる。

ツーちゃんが深々とお辞儀をした。

ホールには歓声と拍手、そして指笛。

お客さんたちはツーちゃんだけでなく、一緒に踊ってたお客さん同士にも拍手をしあっている。ドレスを着た女性とドレスを着た男性が抱擁している。

そう!私が見たかった光景!みんな笑ってる!

ベネチアンマスクの下でも、きっと着ぐるみの中でも。アンコールの拍手が起こる。

ツーちゃんがちょっと困っている風。

そこにあの曲!もちろんテーマ曲だよ

(SHELLY(CHRRY)BOMB)!

ステージには葵ちゃんとミサちゃん。2人ともボンテージファッション!

さあ、みんなで叫ぼ!

今日までの嫌なこと、全部吹っ飛ばそ!

――SHELLYBOMB!!!!!!!――

ホールに響く大合唱を聞いて、ゴリと抱き合った。

みんなの2か月半の全力疾走が終わる。

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