First memory 58

= memory 58 =


SHINさんはずっと笑っている。

私がおもしろいって。

やっと笑い終わったときに、おいでって言う風に手を広げてくれたから寄り添う。

肩を抱いてくれた。

『ほんとに愛されてきたんだね。家族にも、お兄さんにも。だからこんなにまっすぐなんだね。うらやましいよ、cherryもcherryの家族も。』

SHINさんの話を聞いたあとだし、お兄ちゃんはバカだし、なんにも言えない。

『cherryは、朋なんだ。』

ってSHINさんはいきなり言った。

「・・はい・・戸籍の名前は、大下朋です。」

今さらの自己紹介。

多分、順番めちゃめちゃ。

『じゃあこれから、朋って呼ぼうか?』

SHINさんにそう言われてちょっと考えた。

朋って名前が嫌いなわけじゃない。

でもcherryって呼ばれたいと思った。

SHINさんが私を呼んでくれる時の響きが好きだし、ゴリさんやカバさんがそう呼んでくれるのもとても好きだ。

最初はいやだったけど。

それに半年後以降もcherryでいたいし、そう呼んでもらってる間はwonderlandにいれる気がした。

「今までどうり、cherryがいいです。」

SHINさんはOKと言ったあと

『僕の戸籍の名前は、神村真です。でもSHINで。』

と言った。マコトなんだ。

時計は1時を指している。

少し眠たくなってきて、座ったままSHINさんにもたれてうつらうつらしていた時に、SHINさんが私の髪を撫でながら呟くように言った。

『ほんとはちゃんと話すまではkissだけと思ってたんだけど、ブレーキがきかなくなった。大人げないよね、ごめんね。でも手を離したらどこかに行ってしまう気がした。一緒に月を見たときに、cherry が僕のハーフムーンだと思った。離したくなかった。誰にも渡したくなかった。僕だけのものにしたくなった。』

SHINさんの独り言みたいな呟きの中の、ハーフムーンって言葉にドキっとした。

高校時代、半月を見たときにふいに頭の中に

〈半身を求めてやまない〉

っていう言葉が出てきたことがあった。

当時、付き合っていた先輩に話したら、意味がわからないって言われた。

私もわかっていたわけじゃない。

でも今、私の中で急に浮かんだあの言葉の意味がわかった気がした。

SHINさんのことを愛しく感じる。

抱きしめたくなる。

抱きしめてもらうんじゃなくて、私が抱きしめてあげたい。

謝らないで。


土曜日、二人で〈SHELLEY〉に行くことにした。

この間のSHINさんが悪いkissmarkのことをちょっと伝えたから。

私の話を聞いたSHINさんは、とっても恐縮してベットで土下座をした。

恥ずかしい思いをさせてしまって、本当に申し訳ないって。ゴリさんにもカバさんにも迷惑をかけたので、謝りに行くって。

二人で揃って行くっていうだけですごく恥かしいんだけど、なんだかそれ以上にうれしかった。

お詫びとお礼を兼ねて、"angel"のケーキを買った。値段を見たSHINさんは倒れかけてた。

出逢った頃にゴリさんに奢ってもらった話をしたけど、理由は言いません。


〈SHELLY〉には、いつものようにゴリさんとカバさんがいた。いつもはもうちょっと遅く来るのに、今日はツーちゃんもいる。

私は大好きな開店前の〈SHELLY〉に、4人の魔法使いが勢揃いしてる光景がうれしくてたまらなかった。

3人とも普通を装いながら、心の中でニヤニヤしてるのマルわかりだからね!

SHINさんは、ゴリさんのソファーのところで、さっそく叱られている。

すごく恐縮して小さくなっている。

かわいそうだけどおかしい。

私はツーちゃんに更衣室に連れて行かれた。

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