First memory 57

= memory 57 =


シャワーを浴びながら考えていた。

考えたこともない人生を。

おなかがすいて死にかけるなんて、想像できない。一人で留守番をするのも嫌だった年頃。おばあちゃんもおじいちゃんもいない夕方は、壁紙の模様が怖い顔に見えて、ずっと玄関でお兄ちゃんを待っていた頃。

SHINさんは一人だったんだ。

かわいそうだとは思わなかった。

ただ悲しかった。

鞄にはお兄ちゃんから預かったSHINさんへのプレゼントが入っている。あれを渡していいのかどうか、ちょっと悩んでいる。

でも、そんな風に気をつかうのって違う気がする。私だったら嫌だなと思った。

シャワーから出たら渡そう。

洗面所には私の歯ブラシがSHINさんの歯ブラシの横にいる。

『今のままであいつの側におったって』

ってJ さんの言葉を思い出した。

SHINさんに借りたパジャマは、袖も足も何回折っても長い。


SHINさんはベットの上に座って楽譜を見ていた。私に先にシャワーを使わせてくれたから。

もうすぐ日にちが変わる。

小さく深呼吸をして言った。

「SHINさん、私には兄がいます。兄から私の・・彼氏に渡せって預かってるものがあります。SHINさんに渡していいですか?」

いらないって言われたら悲しいけど。

SHINさんはちょっとポカンとしたあと

『・・ありがとう・・はい。ください。』

と言ってくれて、ベットの上に正座した。

お兄ちゃんから預かった袋を渡した。

中から綺麗に包装されて金色のリボンのかかったチョコレートが出てきた。

SHINさんは丁寧にリボンをほどいて包装を解いた。そしてチョコレートの箱を見つめて、ちょっと笑いながら

『お兄さんに"ありがとうございます、わかりました"って伝えて。それとも直接言おうか?』

って言ってくれた。そしてチョコと包装紙とリボンをベットサイドの引き出しに入れた。

受け取ってくれて、笑ってくれてよかった。

直接会おうかって言ってくれたのもすごくうれしい。

お兄ちゃんには会ってほしいけど、今はまだはずかしいよ。SHINさんには言わなかったけど、お兄ちゃんは知ってるんだから、kissmarkのことも。

「いつか会ってほしいけど、今はまだ恥ずかしいから。」

SHINさんを見ずに言ったけど、多分私、トマトになってると思うな。

SHINさんは笑って私の頭をポンポンとしてシャワーを浴びにいった。


シャワーの音を聞きながら、ふと思った。

しかしなぜチョコをベッドの引き出しに入れる?冷蔵庫だろ?普通・・。

なんとなく気になりだす。

・・チョコじゃないのか?・・

まさか・・いや、いくらなんでも。

お兄ちゃんの言葉を思い出す。

『最近の高校生は・・』

たまらなくなって、さっきの引き出しを開けてしまった。

孝バカ!大バカ!!!

ちょうどその時、シャワーからSHIN さんが出てきた。

「SHINさん!ごめんなさい!まさかお兄ちゃんがあんなの!タカシ、バカ!!チョコって言ったのに!!ほんとにごめんなさい!」

もうほんとに泣きたい。SHINさんは、

『cherry 、落ち着いて。僕は兄弟はいないけど、もし妹がいたら同じことをしたいと思ったから。』

笑いながら言ってくれたけど、やっぱり孝のバカ!

SHINさんは、ベットの上で立ち上がって謝っていた私の隣に座って

『とにかく落ち着いて。』

と座らせた。

『大事なことだから。それにちゃんと見た?』

ちゃんともなにも!

SHINさんは、私の手からその箱をとって私の目の前にかざして見せた。

そこにはお兄ちゃんの汚い字で殴り書きみたいに

〈朋を泣かせたら殺す〉

と書いてあった。

・・でも孝のバカァーーーッ!!!!

疑わなかった私もバッカ!

6月にチョコなはずないやん!!

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