First memory 47

= memory 47 =


SHINさんはほんとにちょっと困ってるみたい。

おかしくなって少し笑ってしまった。

つられてSHINさんも照れながら笑う。

『とにかく、素晴らしいデビューだったよ。それに第2ステージ出てきたときは感心したし、惚れ直した。』

やっぱり笑いながら言う。

惚れ直すって言葉に、今度は私がどぎまぎしている。

『せっかくだからなんか歌う?ピアノ弾くよ。』

SHINさんのピアノで歌う?そんなうれしいこと。

でも、なんとなくそれはまだしちゃいけないことのような気がした。

私はJ さんのパートナーだから。残念だけど首を振った。

『聴かせてほしいです。』

それも本心。

SHINさんは一瞬で私の心をすべて理解してくれたみたいに感じる。

『OK !じゃちょっと待って。』

そういうとピアノの近くだけど、グランドピアノの音がきつすぎない場所に空間を作り、椅子をひとつ置いてくれた。

『ここ座って。』

座るとちょうどピアノを弾くSHINさんも見える位置。特等席だね。

『では、なんなりとリクエストをどうぞ!』

ちょっとかしこまった感じに言うと、袖をまくってピアノの向こうから笑顔をくれる。

一番聴きたかった曲はさっきまでは、(Honesty )だった。

でも今は(allelujah)になってるけど。

「もう一度、(Honesty)が聴きたいです。」

言葉が終わる前に前奏が始まった。

最初に聴いたとき、この歌の意味は知らなかった。今、知ってる。大好きです。

柔らかいピアノ、優しい声。

あのときは拍手もできなかった。

今日はちゃんと、いっぱい拍手した。

余韻が消えるのを待って。

「ありがとございます」

って言おうと思ったら、SHINさんはそのままピアノを弾き始めた。・・(MISSING)

I love you って歌詞のところで目があった。

今日は私しかいない。

そして彼女はガードをかけに現れない。いいの?

曲が終わった。

沸き起こった不安もない。

ジェラシーを感じる相手もいない。

拍手をしながら動悸が早くなってるの感じる。

『セットにしちゃった。』

歌い終わって、ピアノから手を離して言った。

にこって笑ってくれる顔を見てうれしくなる。

私も笑顔が返せた。

SHINさんは足元に置いていたペットボトルの水を飲んだ。

『次は?』

ちょっと休憩してくださいって言おうと思ったのに、違う言葉が出ていた。

「・・もう一度、(allelujah)が聴きたい・・」

心の声のままの声?

頭で考えていない声?

『OK !』

SHINさんは少し笑って言うと、背筋を伸ばして一度目を閉じた。


演奏が始まって数秒で涙が出てきた。

体中が熱くなってくる。

最高に幸せな時間なのに苦しい。


もういい。


優柔不断でも、報道カメラマンでも、ゴリさんが反対しても、私が何人出てこようとも。

私はSHINさんが好き!

このまま二人でずっとこの部屋で、地球が終わるまで一緒にいたい。

それが私の正直な心だから。

SHINさんの透き通った歌声に包まれながら、まっすぐに彼を見つめた。

涙が溢れているまま、まっすぐに。

私の新しい視線に気づいたSHINさんも、歌いながら見つめてくれた。

最後の一音が響き終わっても涙は止まらない。


SHINさんはピアノから離れて、私の足元に膝まずくとそっと右手をとってくれた。

『どうしたの?大丈夫?』

頷く。左手の甲で涙をぬぐった。

「(allelujah)、ステージで歌いますか?」

『・・歌わないよ』

「私にだけ歌ってほしい。この歌は私にだけ、歌ってほしい。」

シンガーに対して最上級のわがままに、

SHINさんは『OK 』と静かに言った。

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