First memory 46

= memory 46 =


日曜日。7時前って言われたのにこんなに早く大阪についたのは決して暇だったわけじゃないんだい。

木曜日に〈Noon 〉に忘れたノートを取りによろうと思っただけだい。嘘だけど。

でも日曜は休みだから閉まってるかな?

そしたら本屋さんにでも行こう。新しい本が読みたかったんだよ。嘘だけど。

日曜に予定がない二十歳女子は自分に嘘つきです。

そんなどうでもいいことを考えながら、タラタラ歩いてたら〈Noon 〉に着いた。

99%閉まってると思ってたのに鍵が開いてる?

誰かいるのかな?ラッキーだけど。

でも泥棒とかだったらどうしよう。ちょっと緊張しながら、少しだけドアを開けて店の中を覗いた。奥にはもうひとつドアがあるのに。

ピアノの音?誰がいるのか多分わかった。

ドキドキしてるもの。

だから、もっとそっと少しだけ奥のドアを開けた。

うれしい予感的中。

SHINさんが歌っている。

気づかれないように、そっとそっと中に入った。

(allelujah)だ!

私が初めてここで歌った曲。

ガチガチに緊張しながら歌った大好きな曲。

SHINさんの歌う(allelujah)は、今までに聴いた誰のバージョンよりも心に染みる。

美しい歌、多くの人の心を潤す歌だということを今さら思う。

涙が出てきたよ。

背景も気持ちも関係なくても、ただ今聴こえている歌に涙がでます。

たとえ歌っているのがあなたでなくても。

純粋に歌に感動して泣くのなんて、いつ以来だろう?

見つからないようにって思ってたことなんて忘れてしまった。

静かに閉めた奥のドアの前に立ちすくんでいた。

でも気づいてないみたい。

気づかないで。最後まで聴かせて。

ピアノの最後の音を弾き終わるまで、SHINさんは私に気づかなかった。

私は、ぼーっと立っていた。

拍手をすることも、動くこともできずに。

最初に(Tempest)を聴いた時とおんなじ。


『あれ?cherryちゃん?どうしたの?』

(allelujah)の余韻を最初に破ったのはSHINさんだった。

「ごめんなさい。控室にノート忘れて。」

それだけ言うのが精一杯だった。

『そっか。聴かれちゃった。ゴメンね、cherryちゃんの記念の曲。』

あわてて、手をぶんぶん振った。

「とんでもないです!SHINさんの(allelujah)の方がずっと(allelujah)です!」

自分でも、言ってることわけわかんないよ。

でもSHINさんはちょっと微笑んで

『cherryちゃんの聴いて、歌いたくなったんだよ。好きな曲だけど歌うつもりはなかったから。こっちおいでよ、入口に立ってないで。』

あっ、ノート。頷いた。

「ノート取ってきます。」

そう言って控室に向かった。

デビューの日のことを思い出していた。

一日で三年分くらい、いろんなことがあった。

SHINさんには、本当に本当に本当に助けてもらった。

もし、あの場にSHINさんがいなかったら、どうなっていただろう。

そう思っただけで、今でも足が震える。

ちゃんとお礼を言わなきゃ。


ホールに出ると、やっぱりSHINさんはピアノを弾いていた。

『ノートあった?』

いつもの笑顔だった。頷く。

「SHINさん、本当にありがとうございました。月曜日にここにいてくださって。プレゼントもいただいて。それにいっぱい助けていただいて本当に本当にありがとうございました。」

そう言って膝に頭がつくくらいお辞儀をした。

『え~、やめてよ。cherryちゃんのデビューが見たいからいただけだし。それにあんなアクシデント、めったにないんだから。デビューの日に遭遇したのがかわいそうだったよ。J &CHERRY のデビューに参加できて、あんなスリリングで感動的な体験させてもらって、こっちこそありがとうだよ。』

なんかあせって、恐縮してくれてる。

そんなSHINさんをかわいいと思ってしまった。

私、生意気だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る