First memory 48

= memory 48 =


ちょっとだけの沈黙のあと、SHINさんは膝まずいて私の手をとったまま言った。

『ピアノ弾ける?』

頷いて答える

「canonくらいまでなら。」

『・・一緒に弾こ。』

SHINさんに手をとられてピアノの前に座った。

『canon 、弾こう。』

「何年も弾いてないです。ムリ!」

『大丈夫、ちゃんとフォローするから。』

SHINさんが、後ろから私の両肩に手を置いて言う。

そして私の右手を鍵盤の上のcanonの最初の音階に置いた。左手。

その上から、彼の大きな手がすっぽりと私の手を包み込む。

細くて長い指。

指を重ねて最初の音たちを弾いた。

SHINさんの掌が私の手の甲に重なっている。

ゆっくりと始まるメロディー。

思い出してきたよ。

指が覚えてるんだね。もう何年も弾いてないのに。

SHINさんは途中から、主旋律を私に弾かせて、自分は隣の鍵盤で弾きはじめた。

覆い被さっている感じ。二人羽織みたいだよ。

私の想像力、色気ないなあ。

でも、背中が暖かい。楽しい。

なにかを考えるのはやめよう。

音と時とSHINさんに任せてみよう。

いつの間にか、頬と頬がくっついている。

でもそんなことおかまいなしで、自分たちが奏でるメロディーに酔っていた。

だから弾き終わった時に、そのまま唇を重ねたのは、とてもとても自然だったと思う。

二人とも少し汗をかいていた。

とても優しいFrench kissを何度か。


『この季節のこの部屋、好きなんだ。』

SHINさんが言った。

『ほら、あそこに月が見える。』

ピアノの椅子に座って、灯りとりの窓を振り返るとビルの間に月が見える。

今日は三日月。

漆黒の闇の中に浮かんでいたらどんなに綺麗だろう。ビルの明かりが邪魔だと思ったとき、高層ビルの最上階の窓の灯りが消えた。

「あっ、電気消えた。」

その瞬間まで気がつかなかったけど、この部屋も灯りが点いていなかった。

私たちの手元と鍵盤を照らしていたのは、月灯りだ。

『月が美しく見えるのは、闇の中にあるからだよ。cherryは月だね。きっと。だから・・・』

言葉が終わらないうちに、もう一度SHINさんの唇が重なってくる。

目を閉じたけれど、彼が鍵盤の蓋を閉じたのがわかった。

ゆっくりと時間をかけて、SHINさんの舌を感じる。

柔らかく受け止めることができるかな?

second deepkiss。

いきなりじゃないし、無理やりじゃない。

変な姿勢でピアノにもたれている。

J さんが知ったら怒るだろうなと思ったとき、抱きすくめられて背中がピアノから離れた。

唇は重なったまま。

ゴリさん、カバさん、ごめん。

私、多分、スキヤキパーティーにかなり遅れる。


SHINさんの腰に腕をまわした。

そしてその腕に少し力を入れた。

こたえるように、ぎゅっと抱きしめてくれる。

私もこたえて抱きしめる力を強めた。

でも、あんまり力入らないよ。

なぜなんだろう。

唇を離したSHINさんが、見つめてくる。

はずかしくてうつむいたら、顎を優しく支えて顔をあげさせた。

『cherry、好きだよ。初めて逢ったときから、君を撮った日から。』

顎を持たれたら、顔が動かせないんだ。

そこ知ってる。

だから、まっすぐに見つめたまま答えた。

「・・うれしい」

頭で考えなくても言葉って出るんだ。

ゴリさん、カバさん、ごめん。

今日、きっとスキヤキパーティー無断欠席します。


抱きしめられたまま、頭の上でSHINさんの呟きが聞こえた。

『・・みんな、君が愛しくなる。』



■Today 's Favorite sounds■

allelujah / Fairground Attraction

canon /Pachelbel

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