First memory 19

= memory 19 =


『どうだった?』

一通りテーブルを廻ったSHINさんが、やっぱり微笑みながらボックス席に戻ってきた。額には汗が光っている。

「すごかったです。どきどきしました。」

正直に答える。

『ありがと!』

そういうと、溶けてしまっているCHERRY specialをチラリと見た。

『おいしかった?』

「はい」(おいしかったです。うれしかったです。少しだけでも幸せな気持ちになりました)

・・もちろん心は言わない。

『でも、残ってる。』

(胸がいっぱいになって食べれなくなったんです)

・・もちろん心は言わない。

ちょっとうつむいた。

SHINさんは、CHERRY specialのグラスを自分の方に持っていくと、一口食べた。

だめだよ!胸が破裂しちゃうよ。それを喜んではいけないって、私の中の私が言ってるのに。そんなこと考えてる場合じゃないっても言ってるのに。

間接kissになっちゃうじゃない。なんか、ちょっとうれしいって思っちゃうじゃない。だめだよ。

(そんなことで喜んでるなんて、お子ちゃま~)ってツーちゃんの声が聞こえた気がした。ほんと、お子ちゃまだね。

『9時からのも見ていく?もっとハジケル系だけど。チェリーちゃんはそっちのが楽しいかも。』

私の残したCHERRY specialを、私が使ったスプーンで完食して、相変わらず微笑んで言う。

私はかろうじで首を横に降った。

「・・家に遅くなるって言ってないから。今日は帰ります。」

精一杯のブレーキ。

『そう・・』

残念そうな顔しないで・・やっぱりしてくれてありがとう、社交辞令でも。

『まっ、これからだしね』

そうですね。これから、ここで歌う先輩と後輩になれます。頑張ります。何よりもあなたに呆れられないように、がんばります。

うしろ髪を引かれる思いって初めてだよ。

ドアの外まで送ってくれたSHIN さんにお礼を言って歩きはじめる。

振り返りたい。

でも振り返ってそこに彼がいなければ、悲しいから振り返らない。

でも、もしかしたら、もし振り返ってそこにまだ彼がいたら。

葛藤をしながら歩く。

振り返らなかった。

落ちたとたんに終わっちゃったね。


家に遅くなるって言ってない、なんて嘘だった。

居酒屋のバイトの時は、遅いと12時をまわったもの。駅前のお店だから、そこから自転車だけど。

最終電車に乗れたら、それより早く帰れるもの。

でも、次のステージ見たら、もうガード効かなくなっちゃうよ。ぜったいに。

いつも私に危険を知らせるもう一人の私を思う。

なにか考えてないと泣いちゃいそうだから。

不思議なのは、彼女が今、出てきたこと。

本当に久しぶりに出てきたね。

それほどダメだってこと?SHIN さんのこと好きになるのが、それほどダメだって・・。

でもダメの理由が、叶わないからって、どうせ失恋するからってことだったら、へっちゃらだよ。想いを押さえ込んで、傷つかないより、嬉しいも悲しいも、ちゃんと自分で受け止めて傷つく方が、生きてるって感じなんじゃない?もう一人の私は、何も答えてくれない。

やっぱり、だめなんだね。


■Today 's Favorite sound ■

HONESTY/Billy Joel

Missing /久保田利伸

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