First memory 16

= memory 16 =


山盛りのポテトを運んできたSHINさんは、私の海老バーガーが完食されているのを、チラリと見た。でも、何も言わずにポテトをテーブルの上に乗せる。

少し笑ったあと、

『これは、食べやすいでしょ?』

といった。やっぱりイジワルだったんだ!優しいと思ってたのに。

席に着くと、ポテトを食べながら

『ごめん』

と言った。

『natural CHERRY が見たかったんだ。』

natural CHERRY?

『この間は、ツーちゃんに飾ってもらって、確かに綺麗だったけど。歌うまではなんかぎこちなかったでしょ。あれが素のチェリーちゃんなら、お化粧落としたらどんな感じかすごく見たかった。ステージ衣裳で、完璧な化粧で、堂々と歌うCHERRYじゃなくて、困った時の素顔のナチュラルなあなたが、見たかったんだ。ごめんね。』

そういって手をあわせた。

「やっぱり。なんか、イケズな感じでした目が。海老バーガー大好きなのに、おいしくなかったです!」

怒りながら言ったら普通に話せた。ちょっとおもしろくなって、笑ってしまった。

『やっぱり、natural CHERRYの笑顔はいいなあ。』

また、はずかしくなる。

『時間が大丈夫なら、ほんとにステージ見て行ってよ。』

今度は肘をついて、組んだ手の上に顎をのせた格好で、じっと見つめてくる。

もうその手にはのらないから!

「見たいです。でも、Jさんがまだ、他の人の歌聴いたり、ピアノ聴いたりしないでって言ってました。彩さんのステージも見ちゃダメって。」

SHINさんは、ポテトをつまんで

『フ~ン・・・』

と言った。

『なんでかねえ?癖がつくのがイヤなのかな?でも、僕は男だし、ええんとちゃう?彩の曲の感じで行くんでしょ?Jは僕のもダメって言った?』

個人的に『SHINさん』とは言ってないけど、『他の人』ってくくりだったから、多分ダメなんだとは思ったけど、

「個人名は出されてませんでした。」

と答えてしまった。

『ねっ!じゃあ大丈夫だよ!それにJはもういないよ。今頃、名神飛ばしてるから。』

名神?高速道路?

『Jは月曜の昼まで帰ってこないから、もしだめでもわからないよ。多分大丈夫だけどね。』

悪魔の誘惑だよ。だめだよ、SHINさん。

心ではわかっていたのにうなづいてしまった。Jさん、ごめんなさい。

『よっし、決まり!じゃあ、行こう!』

SHIN さんは、残っていたポテトを一握りして口に入れてもぐもぐすると、立ち上がった。

あわてて言う。

「ごちそうさまでした。」

ごちそうになったのだから。

SHINさんは、にこっと笑って言った。

『こちらこそ、ごちそうさまでした!』

なぜ??


さっき出てきたばかりの<Noon>に入ると、Jさんはいなかった。そのかわり数人のスタッフの人が出勤している。

『おはよーございまーす!』

SHINさんの後ろから覗いていると、

『入って!』

と手を引っ張られた。

店の中は、いつも練習している<Noon>とは違って見えた。いくつかの赤色灯のせいかもしれないし、Jさん以外の人がいるからかもしれない。

SHINさんに言われて一番奥のBOX席に座った。

『まだ、顔ささないほうがいいでしょ?』

そういうと、厨房から、オレンジジュースを持ってきてくれた。

『オレの彼女だって言ってあるから大丈夫!』

あっ、またドキドキしちゃった。

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