First memory 13

= memory 13 =


『SHIN の本職は、カメラマンやから。』

J さんがピアノの準備をしながら言った。

『J、やめてや。物撮ばっかしてる売れへんってつけて。』

SHIN さんは、ちょっと自虐的に言う。

ツーちゃんは、ヒールを履いた私をまじまじとあっちこっちから見たあと、時計を見て

『タイヘンだぁー!』

と叫んで帰って行った。

お店あるもんね。ごめんね。ありがと。

『チェリー、結構、胸あったんやな。』

Jさん、ルーズソックスですって、普段なら答えてたと思う。

でも、カメラの準備をしているSHIN さんがいるから、

「ツーちゃんの魔法です。」

って答えた。私、ちょっとおかしい。

『じゃっ、撮ろうか?』

準備ができたSHIN さんが言った。

ドキドキしてます。


やっぱり私にモデルは無理だよ。

ポーズなんてできない。七五三の子供みたいに棒立ちの私を見て、J さんがため息ついたの知ってる。

せっかく、ツーちゃんが魔法をかけてくれたのに。シンデレラ気分も味わったのに。もう馬車はかぼちゃに戻るのかなと思うと、ちょっと哀しくなった。

カメラをかまえてたSHIN さんが、ファインダーから覗くのをやめた。おしまい?

『歌おうか? J 、ピアノ弾いて。』

歌うの?

SHIN さんの言葉にJ さんがピアノに向かった。

『なに歌いたい?』

そう言われて、考えていたら

『今日は〈中央フリーウェイ〉やねん。』

とJ さんがピアノを弾きはじめた。ボサノバ風!

ちょっと聞いて、歌い始めたら、シャッターの音が聞こえる。ちょっとリラックスしている。ボサノバ風かっこいい!

歌い終わったとき、SHIN さんが拍手してくれた。

『うまいね!ってシンガーに失礼か。』

優しい笑顔だなぁ。

でも、J さんはため息をついた。

『もうちょっと、艶でえへんかなぁ。彩は出過ぎやったから、この曲はあかんかったんやけど。』

そうなんだ。艶って?

『初めて合わしたんなら、いい感じやん。』

SHIN さんの言葉に、J さんも『そやな』って言ってくれた。助けてもらった感。

でも、こんな素敵なドレスだし、胸には初めて谷間があるし、もうちょっと違うの歌いたいなぁと思っていたら、SHIN さんがファインダー越しに言った。

『好きな曲は?歌ってみたいなぁって思ってた歌は?』

歌ってみたかった曲?ある。でも、

「よく聴いてる曲はあります。」

と答えた。

『歌える?』

「・・はい。でもちゃんと歌えないと思います。マイクで歌ったことないし。」

シンさんは話ながらも、シャッターをきる。

『お風呂で歌う?』

「しょっちゅう・・」

『じゃ、それでいこう。なんて曲?』

「Patti Austinの・・」

あっ、ちょっと恥ずかしい。

『〈Say you love me〉?』

ちょっとびっくり。うなづく。

Jさんがピアノを弾きはじめた。私のキーだ。

大好きな曲。昨日の夜、ちゃんと意味を調べた。

女の子が『私のこと好きって言って』って繰り返してる歌。だからよけいに恥ずかしい。

でも、楽しい。

SHIN さんはシャッターをきり続けたけれど、もうその音は気にならない。

それよりも、彼が間奏で入れてくれた口笛が心地よくて、胸が熱くなる。

初めての8センチヒールで、ちょっと痛かったつま先のことも忘れていた。

今なら、なんだって歌える気がする。

ツーちゃんとSHIN さんの魔法はすごい!

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