First memory 12
= memory 12 =
控室のドアを少しだけ開けて、ドアの外で待ってくれているツーちゃんを呼んだ。
「ツーちゃん、助けて。」
『入ってもいいの?』
ツーちゃんは、でもやっぱりという感じだ。
「入って。胸が・・・。」
ツーちゃんはそこまで聞くと、ポンと手をたたいてホールから鞄を持ってきた。
『はい!ルーズソックス!』
そう言って、ルーズソックスをくれたけど・・。ルーズソックスをどうしろと?
ドアの隙間から覗きながら、不可解な顔をする私に気づいて、
『知らないの?胸に入れるの。パットのかわり!』
「ルーズソックスをパットのかわり?どうやってー?」
『チェリー!女子力最低!』
ちょっと怒りながら、何かしている。
「ツーちゃん、入ってきて。」
『入っていいの?』
「わかんないよ~ぉ~」
ツーちゃんがちょっと嬉しそうな気がした。
ルーズソックスをクルクルと丸めて、輪ゴムで留め、ちょっとひっくりかえしたものを二つ作ってくれた。
『胸の下に入れるのよ、ドレスのパッドとの間に!』
ゴソゴソと入れてみる。わかんないよぉ!
『あーー!もう!』
突然、ツーちゃんが胸に手をつっこんできた。胸の下にルーズソックスのパットを上手にいれてくれた。すごい!Cカップみたい。
「ツーちゃん、すごい!」
そう言ってから、はっと気づく。ツーちゃんは戸籍上は男性です。
「ツーちゃん、私、女友達にも胸触らせたことないかも・・・」
『じゃあ、初タッチは私ね!』
二人で、大笑いをした。
『チェリー、ほんとにぺちゃんこだった!』
ツーちゃんはそう言って、泣きながら笑った。ツーちゃんが謝ったり焦ったりしなかったから、ほっとしている。
ドレスを着たあと、髪のセットもしてもらってから、鏡を見た。
私の知らない私がいる。その後ろからツーちゃんが自慢げな顔で覗き込んでくる。
『魔法をかけてあげたんだから。』
本当に魔法みたいだよ。
『J~!できたよ~!』
ツーちゃんが得意げにホールに出て行った。
ちょっと恥ずかしい。Jさんはなんて言うんだろう。
ツーちゃんのあとから、スゴスゴとホールに出た。
『J、SHIN!見て!』
え~!?知らない人がいる!初めての格好で、初めてのお化粧で、知らない人に会うのはいやだよ。ツーちゃんの影にかくれる。
『ほー・・、ツーやるなあ!』
Jさんが、褒めてくれた。ツーちゃんを。
『ツーちゃん、でも、靴まずくない?』
知らない人が言った。
靴?ローファーだよ~。泣きそう。
『大丈夫!ツーのがある!』
ツーちゃんは、大きな鞄から靴の箱をとりだした。箱を開けると真っ白な8センチヒール。
知らない人はツーちゃんの手から、靴の箱を取ると近づいてきた。
目の前まで来ると、上から下まで確認するみたいに私を見て膝まずいた。
『足出して。』
上目づかいに言われてドキッとする。ドレスを少し持ち上げて、ローファーの右足を出した。
彼はツーちゃんの靴の箱から、真っ白なハイヒールを出すと、私の右足を少し持ち上げてローファーを脱がせた。
そして、ハイヒールを履かせてくれた。
次に左足。
顔をあげてまっすぐ前を向いたら、きっと視界が違うんだろうな。でも、彼を見ていた。
シンデレラみたいだ。
片膝のまま、彼が顔を上げた。
私を下から見上げるみたいになる。
少しだけ微笑んでいる。その姿勢のまま言った。
『初めまして。SHINです。』
靴のサイズ、ツーちゃんと一緒でよかった。
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