First memory 11

= memory 11 =


ツーちゃんが持ってきたカルピスを飲もうとしたら『違う!』と叱られた。

なんで?って顔をしてたんだろう。ゴリさんはため息をひとつついて、

『チェリーとって!』

と言った。

えっ、私?って顔だったんだろうな。

『ほんまもんのチェリーよ!』

ゴリさんはちょっと笑いかけている。

あぁ、さくらんぼか。

『食べて!』

食べる。おいしい。

『どうせ、おいしいとか思ってるんでしょ?違う。その枝のとこ、口の中で結んでごらん。』

あぁ、昔、高校の先輩がやってたのを思い出した。こんなの簡単!・・・結べません・・・。

ゴリさんはしばらく、悪戦苦闘する私を見ていたけれど、途中で爆笑してしまった。

『おもしろいもの見せてもらったわぁ。とにかく、さくらんぼ買って缶詰でもいいから、練習しなさい。J のことだから、歌詞、明日までに入れろって言ってるんでしょ?音読して!』

ゴリさんはそう言うと、丸椅子に座って私の音読を聞いてくれた。立ったまま音読をしている私は、ゴリさんの生徒みたいだ。センテンスごとに日本語に訳してくれる。

来ない人を待ち続けている。子供の頃の想いに重ねて。切ない歌だね。

今まで、あんまり考えずに聞いてた英語の歌。ちゃんと歌詞の意味や作った人の気持ちを考えて聞けば、もっと好きになるのかもしれない。音ではなく歌として聴いていかなきゃ。

歌っていかなきゃ。


『今日は〈中央フリーウェイ〉しょうか。その方がええやろ?』

Jさんはニヤッて笑ったけど、

ゴリさんのおかげで、〈superstar〉も大丈夫なんだけどなあ。ホッとしたのは事実だけど。

『今日は、ちょっと写真撮影しとこか思って。カメラマン呼んであるから。』

写真ってまさかあのチラシの?

『ポスターも作るで。入り口の大きいやつ。』

あれ?私、今声だしてないよね?

『昨日、〈SHELLEY 〉でチラシ見たやろ?』

なんで知ってんすか?もしやツーツーですか?ということは、ご存知とか?あのdeepkissも。やられた感、満載だよ。

『オハヨーございま~す!』

って、あれ?ツーちゃん?

入ってきたのは、やっぱりツーちゃん。

『スタイリスト登場!』

ウインクしてきた。

『チェリー、私に任せなさい!とびきり素敵にしてあげるから!』

ツーちゃんは大きな荷物を床に置いた。

まず鞄から出てきたのは、白い布。ドレス?

『じゃーん!私のドレス貸してあげるね!』

ツーちゃんはウインクするけど、肩紐の白いドレスなんて着たことないよ!しかも胸でかくない?私の思いは多分ツーちゃんには、届いてない。鼻歌を歌いながら、テーブルの上にいろんなものを並べだした。

『チェリー、座りなさい!』

えらそうに言う。「ハイ」って答えて、ツーちゃんの前に座った。


上向け、下向けとか、横、斜め、全部閉じて、半目だとか言われながら、目のお化粧だけで20分くらいかかった。つけ睫毛って初めてしたよ。バサバサするね。眉毛も綺麗にカットしてくれた。かれこれ1時間だよ。

口紅を丁寧にひいたあと、ツーちゃんがフーっと息をついた。

『じゃ、ドレス着てきて!』

って。

着方がわからないって言ったら、呆れられた。

「いっしょに来てよ。スタイリストさん」

ちょっとあきれられながらも、ツーちゃんに頼む。


『ブラジャーはずしてね。胸パットついてるから。』

あー、そうですね。肩紐だもんね。

せっかくのお化粧が崩れないように、ツーちゃんの白いドレスに口紅をつけないように、ハンカチで顔を覆って白いドレスを着た。

シャツも脱いで、ブラジャーもはずして・・。

大変です!胸が・・ブカブカです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る