First memory 10
= memory 10 =
確かに、戸籍が男子のツーちゃんにとって、高校っていう集団は過ごしにくい場所だったと思う。
ノーマル・アブノーマルって、言い方はいやだけど、日本ではまだ多数決だ。多数決で多かった方がノーマル、少ない方がアブノーマル。そして島国根性丸出しで、アブノーマルなものを除外したがる。あるいは攻撃をすることによって、奇妙な団結感を持ったりする。いわゆるイジメ。
ツーちゃんははっきりと違う志向で、あきらかに少数派だから、きっとかなり辛い体験をしてきたのじゃないかな?
ついこの間まで、所属した集団、〈高校〉ならではの残酷さを思い出す。勝手な想像だけど。
お皿を洗って、ホールに出た。
ゴリさんはカーペンターズの本を見て、鼻歌を歌っている。
お化粧をして、衣装に着替えたツーちゃんは手鏡を見ている。私を見つけると近づいてきた。
『チェリー、爪を見て!』
わけがわからないけど、グーを握って自分の爪を見た。
『ほらー、やっぱりダメじゃん!オンナの子はねぇ、こーやって見るの!』
ツーちゃんは、手の甲をそらして爪を見た。もちろん綺麗に手入れされている。
『チェリーって、甘皮の手入れもしてないの~?考えられない!』
そう言って、笑うと私の耳元で歌いだした。
『シェリーのチェリーは
ほんまもんのチェリー~』
あーーー、うっとうしい!絡むなよ。
イライラしながら呟いた。
「まったく、ヤなオンナだなあ・・・」
そのとたん、ツーちゃんの顔が変わった。
あっ、ごめん。言い過ぎた。
「・・ごめ・・」
謝りかけたときに、ツーちゃんが抱きついてきた。
『チェリー!!大好き!!』
『ねえ、聞いた?チェリーが今、ツーのことオンナって言ったのよ!ねっ、すっごくナチュラルだったと思わない?』
跳ねるような高い声で、ツーちゃんは、誰にともなく言った。なんか目がキラキラしている。私の首に手を回したまま言う。
『ねえ、もう一回言って!』
「・・・やなオンナ・・・」
なんか複雑な気分だ。悪口言ったのに喜ばれている。ツーちゃんの頬がちょっとピンク色になっている。ホントにホントに喜んでいるんだ。○○なオンナっていうフレーズを考えた。
「ツーちゃんは、いい女です。かわいいし。ちゃんとイケズです。」
これも本心。抱きついていたツーちゃんが、ぴくっとした。泣いているのかもしれない。背中に両手を回して、ポンポンとして、そのままツーちゃんを抱きしめていた。
なんの抵抗もなかったし、ツーちゃんは柔らかかった。
オンナの子だよ。ツーちゃん、私の知っている運動部で鍛えていない、茶道部とか手芸部のオンナの子と一緒の柔らかさだよ。
それ伝えたいけど、どう言えばいいのかわからないよ。だから背中ポンポンを続ける。日本語が難しいときもある。ゴリさんと目があった。優しい目だったと思う。
『チェリーの爪の手入れは、私がしてあげるわね。』
カバさん、ありがとう。
きっと私の肩で、涙と鼻水をちゃんと拭いたツーちゃんが立ち上がった。
『チェリーのお化粧は私が教えるわ!だって下手すぎるし、お肌がきれいだから、カバやゴリみたいに塗りたくらなくてもいいのよ!』
ツーちゃんの頭をゴリさんがコンと小突いた。
『うるさい!チェリーはこっちいらっしゃい。練習でしょ?』
別室ですか・・・。ちょっとびくつく。
『キスしないわよ~。まったく。ツー、カルピス作ってあげて!』
カルピスですか?私ちょっとは飲めます。
カルーアミルクとか、カシスソーダとか。
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