First memory 9

= memory 9 =


「私、チェリーなんですか?」

二つ目のケーキを食べながら聞いた。

『じゃ、名前は?』

頬っぺたにクリームをつけたカバさんに聞かれて、

「朋です」

と本名を答える。

Tomoとゴリさんが紙に書いた。

大文字だけ、小文字だけ、混ぜ混ぜ。

それから漢字で〈朋〉と。

「なんですか?」

カバさんがレジの横からチラシを持ってきて見せてくれた。〈Noon〉のチラシ。芸能人みたいな彩さんの写真の下に

【J & AYA】Monday&Thursday

って書いてある。火曜日と水曜日はサックスを吹いてる人の写真とバンド名。

金曜と土曜は男性の写真で【SHIN】。

ゴリさんが【TOMO】ってそこに書いた。

3人で覗きこんだ・・・。空気を感じたゴリさんが【朋】って書きなおした。爆笑。不覚にも私も笑ってしまった。

『演歌よぉ~!』

確かに・・。演歌なんて中学の時、地域の合唱サークルで老人ホームのボランティアに行ったときに歌ったきり聞いてもいないよ。

ゴリさんが続けて書いた。

【CHERRY 】【J & CHERRY 】

チェリーでいいや。半年だし。意味はナイショで。

『オハヨーございまーす!!』

二つ目のケーキをほぼ食べ終わるときに、かわいこちゃんがやってきた。

『アッラ~!ツー、残念!!ちょっと早かったらケーキがあったのに~』

めずらしくカバさんがイジワルっぽく言う。

『うっそ!angelのケーキ?うっそ!』

先に私のケーキのお皿を見てから、私を見た。

『チェリーじゃない!また来たの?ゴリのキスの味が忘れられなかったかしら~。』

ほんまもんの意地悪とみた。ちょっと私もイジワルを言いたくなる。

「もうちょっと早くいらっしゃれば、一個差し上げたのに。」

かわいこちゃんは、ちょっとむっとした風だ。ちょっと嬉しくなる。私もイジワルだ。

『チェリーも言うわね~。そうよそのくらい言えなけりゃ、ここでは勤まらないわあ。』

『なに?オンナのくせに、ここでも働くの?』

カバさんの言葉に、かわいこちゃんの声がちょっとだけ低くなった。声変わりが始まったばかりくらいの男の子の声だ。

「働きません!」

きっぱりと否定する。

『だよねぇ~チェリーになんか勤まらないわよねぇ~』

『それは、彼女チェリーのこと?それとももうひとつのチェリー?』

ゴリさん、微妙な質問です。

『やあねえ~、両方に決まってるじゃない!

〈シェリーのチェリーは

ホンマモンのチェリー~~>』

かわいこちゃん=いじわるなツーちゃんは、最後を歌うように言った。

なんだよそれ?シェリーで働かないし!

チェリーじゃないし!オンナだってば!

自分で作った曲がたいへん気に入ったようで、

ツーちゃんは何回も歌っている。

まったく、うるさい。ちょっとイライラしてきた。

厨房にお皿を持って行く。お皿を洗いながら、カバさんが少し笑って言った。

『ごめんねチェリー。まったく、ツーはお子ちゃまだから。あなたが嫌がってるのわかってよけいにするのよ。年の近い人も初めてだから、きっとホントは嬉しいのよ。』

「おいくつなんですか?」

『18歳よ。チェリーのひとつ下。』

18歳?未成年?お酒飲むんじゃないの?

『あっ、対外的には二十歳にしてね。未成年まずいから!』

了解しましたの意味をこめて、右手で敬礼をする。

18歳・・・。去年、何してたっけ。

ホールでツーちゃんが歌うのが聞こえる。

『〈シェリーのチェリーは

ホンマモンのチェリー~~〉』

ツーちゃんは、高校に行ってないってことだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る