First memory 8

= memory 8 =


『チェリー!チェリーってばあー!』

女神の声は、顔と同じでとても大きい。音楽が流れていないイヤホンを通過して、周りのざわめきまで、聞こえてくるよ。

仕方なく、イヤホンを外して振り返った。これで今、あさひ書店にいる全員に、゙チェリー゛は私だってばれてしまっているじゃないか。

どうぞ、その意味までばれてませんように。

『あー、やっと気づいてくれたあ!だめよ!あんまり大きな音で音楽聴いてちゃ。難聴になるわよ。』

女神は、私が無視しようとしたとは思わないのかな?なんか申し訳なくなってしまった。

『昨日は、うちのゴリが悪かったわねえ。悪い人じゃないんだけど、デリカシーがないのよぉ、なんせゴリだから。今から〈Noon〉?』

「いえ、終わりました。」

『あら早いのね!あっそうか、今日は金曜ね。じゃあ、ちょと寄っていきなさいよ。お店OPENするまで。ゴリもいるし遊びましょ!』

「犯罪者とは遊びません!」

きっぱりと答えた。女神はちょっとキョトンとした顔をしたあと、爆笑した。

『犯罪者ってあなた!まあ、犯罪よね、未成年ですもんね!あんなことしちゃだめよね!そうだ!犯罪者に奢らせましょ!ケーキ買って行って。』

女神は、カラカラと笑いながらいつの間にか、私の手をとってグングン進んでいった。

新地にあるケーキ屋さんはどこも高い。店の前はたいがい素通りする。女神はそんなお店の中の一件に入っていった。

『ホラ、好きなの選びなさい。遠慮しちゃだめよ、犯罪者に払わすんだから。私は~どれにしようかしら~。』

いや、アンタはなんもされてないから。

ダメだ、朋、ケーキなんかでごまかされるな!あんたのkissはそんな安物じゃない!しかもfirstdeepkissだぞ!という自分と、高級ケーキにヨダレを垂らしている自分が戦っています。

『あら!これ、たまんなーい!!』

女神が大声を出すのでそちらを見ると、この店で一番高いショートケーキ!1200円?!

うちの近所ならホールで買えるぞ!

ミニメロンをくりぬいた中に、カスタードクリームといろんな果物が入って、その上から生クリームが・・・。お口に広がるたまらないハーモニーが想像できます。

『これにしましょうよー?いいでしょ?』

女神の決心は固いようだ。

逆らうことなんかできそうにない。

そうさ、いろいろ優しくしてもらった人に逆らえなかっただけで、決してケーキに惑わされたわけじゃないんだから。犯罪者に奢らすんだ!一個じゃ足りない!私の気持ちが届いたのか女神は4つ買った。


『ただいま~!』

女神はそう言いながら〈SHELLEY〉のドアを開けた。

どきどきしているぞ。

ちょっとやっぱり怖いぞ。入り口の段につまづいたのは、緊張のせいじゃないから!

昨日と同じ奥の席で、昨日と同じように犯罪者は新聞を読んでいる。

女神に続いて私が入ると、昨日と同じように、チラッと見てすぐに新聞に戻った。

「こ、こんにちは・・」

なんで犯罪者に挨拶してるんだろ。

『なに持ってるの?』

『ケーキよ~!食べましょう~!』

っていう女神の声と、

「カーペンターズです」って言う私の声が重なった。

『なに歌うの?』

「スーパースターです」

『無難な線ね。』

厨房から女神の声がする。

『あんたの奢りだからねぇ~!ゴリ~。』

『歌詞を読んで。音読で聞かせて。』

教えてくれるのか?

『ちょっと待って!カバ!なんで私の奢りなのよぉー?!それ"angel゙のケーキじゃない!』

あっ、あっちも聞こえてたんだ。

『あんたが犯罪者だからよぉ~』

女神がコーヒーとケーキをトレーに乗せて、ホールに来た。コーヒーが3つ。ケーキが4つ。

『ハイ!チェリーは二つ!』

やっぱり二つくれた。

『ちょっとカバ!なんでチェリーが二つなのよ?』

『あんたの犯罪の隠蔽のために決まってるじゃない!』

ゴリとカバ・・ZOO。

顔を見て思い出してしまったゴリさんの舌の感触を、カスタードにくるまれたコロコロしたメロンと、巨峰とスポンジの感触が消してくれます。

で、゙チェリー゛定着してんですかねぇ、こちらでは。

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