First memory 6

= memory 6 =


『キャ~!』

カウンターにいたかわいこちゃんが高い声をあげる。

やめて!

心では思っているのに、凄い力で抱き締められて、体は動かせない。

やめて!

なんとか動いた右手で叩いたけど、ゴリさんはなんともないみたいだ。舌が絡まってくる。

蹴ろうとしたけど、足もうまく動かせない。

でも小さな抵抗を必死で続けた。

なんで誰も助けてくれないの?

ママさんはどこに行ったんだよ!

Jさんが先に帰るから悪いんだ!

このまま、押し倒されたらどうしよう!オカマのくせに!

なんの役にもたたない思考だけが巡る。

そうだ!髪の毛!(やっとヒット)

ゴリさんの髪の毛を思いっきり引っ張った。

やった!カツラじゃない!腰を抱く手がちょっとゆるまったから、左手を抜いて、両手で思い切り突き飛ばした。私も反動でシリモチをついた。

『いたーい!もう~セットしなおしじゃない!!』

いきなり、19歳女子にdeepkissをするという犯罪をおかしておいて、セットの心配するな!

シリモチをついたまま、ゴリさんをにらみつけた。

「・・なにするんですか」

すごんだつもりが泣きそうな声になってしまった。悔しい。

『ゴリは、ランボウすぎ!大丈夫?』

美声の女神が、助け起こして近くの椅子に座らせてくれた。

『きゃーっ!kissされて腰ぬかしてる~!』

かわいこちゃんがうるさい。

腰が抜けてるのかもしれないけど、ショックでじゃないから。びっくりしただけだから。

たかがdeepkissのひとつやふたつでショックなんか受けないから。

『まったく~時間ないのに~。』

髪の毛の心配やめろ!

『舌が固いのよ、ガチガチなの。英語で歌うなら舌を柔らかく使わないと、あんたみたいに色気のない歌になるのよ!舌の柔軟性を見ただけじゃない~。』

髪留めをはずしながら犯罪者が言う。

腕から手の甲で、唇をゴシゴシ拭った。濃いローズピンクの口紅が右腕に広がる。

『アラアラ、そんなことしたら、えらいことになってるわよ、顔が。』

女神がそういっておしぼりを2本持ってきてくれた。熱くて気持ちがいい。

2本使って顔を拭いたけど、おしぼりはまだピンクになる。

『ほんとまいったわぁ。ほんまもんのチェリーじゃない。』

セットを直した犯罪者が、口紅を直しながら言う。

『えっ~?19にもなってチェリー?わらう~~』

かわいこちゃんは絶対いじわるだ!

美声の女神がもう1本おしぼりを持ってきてくれた。それで思いっきり顔を拭いて立ち上がり、ドアに向かった。

失礼なヤツらだ!

チェリーじゃねーよ!!

オンナなんだから!


入り口の段を踏み外したのは、動揺じゃないから!

こんな時にまで、条件反射みたいに振りかえって頭を下げてしまった。悔しい!

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