First memory 3

= memory 3 =


店の中は明るかった。まだ営業前らしい。それほど広くはないけれど、中央に小さなステージみたいなのがある。

店内の一番奥のテーブルでは、ごっつい長髪のお兄さんが新聞を読んでいた。

ごっつい長髪のお兄さんだけど、化粧は完璧。ツケマツゲで瞼が重たそうだ。

入り口付近に立っている私を、ちらりと見ただけで、また新聞に目を落とした。

Jさんは小さなカウンターの椅子に座って誰かと話している。

着物を着た坊主のオッサンだった。

振り返った顔は、瞼は青のグラデーション、唇は赤!着物はもちろん女性物だ。〈Noon〉のオーナーの弟サマなんだろう。

弟でも、ママって呼ぶのかな?

『ちょっとおいで』

Jさんに呼ばれて一段だけの段を上がった。

オーナーの弟サマでママさんのオッサンは、案外優しい笑顔をしていた。

『こんばんは。またオボコイ子を・・・』

言葉が気の毒そうに聞こえるのがちょっと気になる。

『J、ほんとにいいの?』

「彩の代理やから、しゃあない。」

私に向かって言う

『あなた、本当にいいの?』

なにがかなあ?

「彩さんに頼まれたし、歌ってみたいです。」

この答えであっているのだろうか?

『彩ちゃんの知り合いなの?じゃあ、近いの年?』

「19歳です。」

『19歳なの?!あら~』

その、あら~は、どういう意味なのかな?

『とにかく、もうちょっとなんとかせなあかんやろ。パットとかも含めて』

オーナーの弟サマでママさんのオッサンは、急に高笑いをあげた。野太い。

『パットの面倒まで見ろっていうの?いいじゃない、歌えれば胸ペッチャンコでも。席につかないんでしょ~?』

私はブンブン首を振った。

「歌うだけです!」

きっぱりと答える。

『ほんだら、そっちでええわ』

Jさんも笑う。私の反応で遊ばれた感が、はっきりわかったよ。


『ちょっと、ゴリ!』

ママさんが、さっきの奥のテーブルの人に声をかけた。

『・・イヤよ私!めんどくさい。』

彼(?)は新聞から目を離さずに答えた。

『うちで英語できるのは、あんただけなんだから、そんなこと言わない!兄さんを助けてやってよ。』

『ゴリ、たのむわ。わしも英語はあかんし。』

あかんのや、と思ってちょっと吹きそうになった時、ゴリと呼ばれた人がこちらを見た。

『あんたは、どうなのよ?やる気あるの?』

初めて正面からまっすぐに顔を見た。〈ゴリ〉さんなんだ。また吹きそうな気持ちを必死でこらえた。でも、この人、かなりオトコマエ。きっとモテるんじゃないかなあ、女性に。それがこの人にとって嬉しいことかどうかはわからないけど。

「彩さんみたいに、歌いたいです。」

もちろん、笑わずに答えた。真剣に答えた。

『ふ~ん』

なんとなく、しらけた空気が漂ってしまったみたい。

どうしようと思っているところに、助け舟みたいに誰かが店のドアを開けた。

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