First memory 2
= memory 2 =
「ジョーダンじゃない!」と思った私の全力の拒否を、彩さんはいとも簡単に涙で覆した。
『私の夢を叶えさせて!ともちゃんにかかっているの!』
大きなウルウルとした目で見つめられると、なんにも言えない。
彩さんはみんなの憧れだから。
ちょっと彩さんの三段論法に矛盾も感じたが、そんな私の矛盾なんて、当然彼女にはおかまいなしだ。
でも、押し切られて首を縦に降った理由は、それだけではない。
興味があったんだ。
彩さんのように、歌手を目指しているわけじゃない。やりたい仕事もある。
でもだからこそ、興味があった。
ピアノ演奏で歌う?お金をもらって。拍手をもらって。スポットライトを浴びて。しかも、高額な日給。
そしてなによりも、主旋律を一人で歌う!
そんなバイトをやってみたいと思った。
だから、私はピアノバーの歌手になることにした。
家族にも、学校にも、友達にも秘密で。
月曜日と木曜日、夜7時からワンステージ、9時からワンステージ。
最終電車には、間に合う。
想像するだけで、かなりドキドキしてきた。
翌週からのボイストレーニングは、まず腹筋から始まった。
腹筋は得意だ。100回くらいは大丈夫。こんなところで中学時代の部活のトレーニングが役立った。まじめに練習していれば、いいこともあるってことだろう。
Jさんは、私の腹筋がパーフェクトだとわかった後、メディシンボールを持ってきた。
ボクサーが腹筋を鍛えるために使う重いボールだ。
いつか漫画で見たトレーニングみたいにお腹に落とされるのかと恐怖を覚えたが、さすがにそれはなかった。
『これ置いて歌って。』と、床に寝転がったお腹の上にメディシンボールを置いて歌わされた。ボイストレーニングのためのトレーニング。
床に寝転んで膝をたて、お腹にメディシンボールを置いて、Jさんのピアノに合わせて発声をする。
他人が見たらどんな光景なんだろう。
そんな練習をくりかえしたある日、めずらしくJさんに褒められた。
『声が伸びるようになったな』
心の中でガッツポーズをする。
『しかし!圧倒的にあかんもんが二つ!!』
(やっぱり・・もったいつけないでよ)
『英語の発音と、色気や!』
(あっ・・そこ)
しばらく考えていたJさんは、私の頭からつま先までをいろんな角度から見て、ため息をついた。
『ちょっと、口開けてみ。ベロ出して。』
言われるままに、口を開けて舌をだす。
『ベロ丸めて。』・・・丸める。
『とんがらして』・・・とんがらす?舌を?とりあえずやってみた。
Jさんはまたため息をつく。
それから電話をかけに行った。戻ってくるなり、ピアノを片付けだす。
まだ終わりの時間にはなっていない。
『オーナーの弟さんの店行くから、ついて来て。』
そう言うと、私の答えは聞かずに店を出た。
〈Noon〉のある路地から一本奥に入ると、随分様子が変わる。その辺りは通ったこともなかった。そしてもう一本奥の路地へ、Jさんはスタスタと進んだ。
19歳女子は絶対に来ないだろう店が並ぶ。Jさんは角のビルの地下に降りて行った。
置き看板には〈SHELLEY〉。
とにかくついて階段を降りる。Jさんがドアを開けると、中から聞こえてきたのは野太い笑い声?・・・
19歳にして、オカマバーデビュー???
それあかんやつやん!!!
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